第2話 ゼロゼロ融資は何が問題なのか(その1)

文字数 1,708文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 本題に入る前にゼロゼロ融資について少し説明しておこう。
 新聞、テレビ、インターネットで出てくる用語なので、知っている人も多いと思う。ここでは、詳細な解説をしていないので、知っている人は読み飛ばしてほしい。

 まず、ゼロゼロ融資とは新型コロナウイルス禍で売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で行った融資のことだ。ゼロ金利、ゼロ担保(保証)の融資だからゼロゼロ融資といわれている。
 ゼロゼロ融資の残高は政府系金融機関である日本政策金融公庫だけで12兆円を超えており、総額は42兆円を超えるといわれている。当初は政府系金融機関で対応しようとしたものの、申し込みが殺到して政府系金融機関だけでは対応できなくなった。
 窓口を民間金融機関にも広げたことから、ゼロゼロ融資は一気に広がった。民間銀行が政府保証で30兆円融資している。

 ゼロゼロ融資はコロナ禍の時限的な対応であるから、申し込みは既に終了している。ゼロゼロ融資は一定期間の返済猶予があるのだが、その期間を経過した後は返済が開始する。中小企業庁によれば2023年3月末時点で約6割が元本返済を開始しているようだ。

 ゼロゼロ融資を申し込んだ企業は手許資金が潤沢にない会社が多い。そのような会社がゼロゼロ融資を返済できるかといわれれば、難しいのかもしれない。
 帝国データバンクによれば、ゼロゼロ融資を受けた企業の倒産件数は2023年9月末時点で1,000件を超えている。まだ、全てのゼロゼロ融資の元本返済が開始されていないから、ゼロゼロ融資を借りた企業の倒産は今後も増えていくと予想されている。

 ちなみに、景気が悪化した場合、各国政府は金融緩和政策を採る。リーマン・ショック後には各国が金融緩和を実施し、日本においても金融円滑化法(モラトリアム法)の施行や金利の引下げなどを実施した。
 新型コロナウイルス禍においては、行動制限が必要であったことから業績が悪化する企業が大量に発生し、それらの企業を保護するために政府系金融機関や民間銀行が経営困窮企業に保証付融資を行った。
 ゼロゼロ融資を受けた企業の経営が行き詰まった場合は、国などが財政面で支援する信用保証協会がその元本の返済を肩代わりする。その肩代わりには税金が充当される。だから実質的に国民の負担によって経営不振企業を支援しているのと同じだ。

 ゼロゼロ融資の貸倒れは国民負担の増加を意味しているから、今後問題化していくことは間違いない。

 ***


 僕たちの今回の任務は、ゼロゼロ融資の崩壊を防ぐことらしい。

 いつも思うのだが、ゼロゼロ融資を始める前に検討させてほしい。人気取りのためにカネをばら撒いておいて、問題になってから国家戦略特別室に持ってこられても困るのだ……

 新居室長はため息を付いている。僕と同じように思っているのだろう。

「どーせ、返ってこねーよ!」と茜はいつものように投げやりに言った。

「そう言わずにさ。考えてみようよ!」と新居室長は乗り気ではないものの仕事として割り切る姿勢を見せている。

 茜は新居室長に反論する。

「ゼロゼロ融資を申し込んだ会社は元々ダメな会社しかない。返ってくるわけねーよ!」
「必ずしも、そうとばかりは言い切れない……」
「なんか、政治家みたいな言い方するよね。室長は政治家を目指しているんですか?」
「違うわよ! ゼロゼロ融資を申し込んだ会社の中にも、まともな会社もあるってこと!」
「ゾンビ企業しかいねーよ!」

※ゾンビ企業とは実質的に経営がほぼ破綻しているにもかかわらず、金融機関や政府などの支援により破綻していない会社のことです。

「まあ、否定はしないわね。そういう会社も多いと思う」
「それに、銀行はプロパー融資を回収するために、ゼロゼロ融資で借換えさせた。モラル・ハザードの典型例だよね」
「それは言い過ぎじゃない」
「そんなことないって。銀行の貸倒れ対策のために40兆円も使って……何やってるんだか……。国民が聞いたら怒るよね?」
「まぁね。そういう面もある。でも、仕事は仕事!」

<その2に続く>
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