第3話 日経平均の構成銘柄を変えろ!(その2)

文字数 1,467文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕は「チェリー・ピッキング」と言われた後ろめたさを感じながらも茜に反論する。

「まぁ、そういう言い方もあるね」

「そういう言い方も?」と茜はわざと棘のある言い方をした。

「他の言い方をすれば忖度かな」
「忖度ねー」
「政府から意向を〇〇新聞社に伝えたら、〇〇新聞社が忖度してくれる……とか」

 僕が茜から目を逸らしたら、今度は新居室長と目が合った。

「志賀くん、大丈夫? 茜に毒されてない?」
「多分……大丈夫です」

 新居室長は茜のノリに似ているのを心配しているのだろう。

「そう」
「でも、これくらいしないと日経平均株価を5万円にできないと思うんです」

 新居室長は少し考えてから「分かったわ、シミュレーションしてみましょう」と言った。

 僕が良心の呵責に苦しんでいることを新居室長は理解してくれたようだ。
 有難いことだが、ちょっと良心が痛む。

 新居室長の許可が出たから、僕はスーパーコンピューター垓に政府から〇〇新聞社に日経平均株価の構成銘柄を変更するように圧力を掛けるようインプットした。

 垓のシミュレーションは10分で終了した。
 僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。

 ***

 垓のシミュレーションは構成銘柄を変更してから日経平均株価が上昇していることを示していた。日経平均株価は4万2,000円を突破している。

 垓のダイジェスト映像は経済団体の会見を映し出した。その経済団体は日本で有名な2つの経済団体のうちの1つだ。
 会見に出席した記者から経済団体の会長へ質問が飛ぶ。

「鈴木会長の企業が日経平均株価の構成銘柄から除外されました。御社の成長性が低いことが理由と言われていますが、この点について会長はいかがお考えでしょうか?」

 鈴木会長は日本を代表する上場企業の会長を務めている。その上場企業が日経平均株価の構成銘柄から除外されたのだ。
 質問された鈴木会長はイライラしたように記者を睨みつけた。

「当社は日本を代表する企業です。我々を外すなんて信じられません」
「御社の代わりに構成銘柄に加わったA社は年率30%で成長しています。株価は過去3年で2倍になりました。御社にはない成長性を有していると〇〇新聞社は判断したのではないですか?」
「そんなことないですよ。どこの馬の骨か分からない会社を入れるなんて、〇〇新聞社も耄碌(もうろく)しましたね」
「A社は最近話題の会社ですよ。鈴木会長はご存じありませんか?」
「そんな小さな会社、知ってるわけないでしょ!」

 今度は別の記者が鈴木会長に質問した。その記者は〇〇新聞社の所属だ。

「〇〇新聞社の佐藤です」
「よくこの会見に出席できましたね? 何のようですか?」
「御社は当社の発行する新聞や雑誌に広告を出しています。日経平均株価の構成銘柄から除外されましたが、今後も広告を出す予定はありますか?」
「あなたねー、ふざけてるの? それとも、上司に広告出すか聞いてこいって言われたんですか?」
「いえ、そういうわけでは……新聞広告は出すんですね?」
「出すわけないでしょ! 〇〇新聞社には今まで広告を出してあげたのに……恩知らずとはこういうことを言うんでしょう」
「それとこれとは話は別だと思いますけど……」
「お黙りなさい! 少なくとも私が会長をしている間は〇〇新聞社に広告は出しません!」

 〇〇新聞社の記者は鈴木会長を怒らせた。鈴木会長は会見を打ち切って、会場から出ていった。

<その3に続く>
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