第4話 コングロマリット・ディスカウントを解消しろ!(その1)
文字数 2,150文字
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
日経平均株価の構成銘柄の編成に失敗した僕。インチキだと言われれば反論できない。
日経平均株価を5万円まで上げるためには企業の業績が良くなることを祈るだけではダメだ。企業業績に関係ない株価の変動要素にアプローチする考え方自体は間違っていない、と僕は思っている。
そう考えた僕は茜に相談する。
「あのさ、日経平均株価を5万円に上げるには企業の業績とは関係のない要素に対応する必要があると思うんだ」
「かもな。日本中の企業の業績が良くなるのを、指をくわえて待ってるわけにはいかないな」
「だから、日経平均株価の構成銘柄を変えればいいと思ったんだ……けどダメだった。他にアイデアはない?」
茜は「他にね……」と言いながら少し考えてから言った。
「そうだな、コングロマリット・ディスカウントは?」
「コングロマリット・ディスカウント?」
「知らない?」
「知ってるけど。コングロマリットの株式評価額が低くなる……ってやつだよね?」
「そう、それ! PBRが低い小さい上場企業は自社株買いすれば株価が上がると思う。でも、コングロマリット・ディスカウントがある上場会社は自社株買いしても、株価が上がりにくいよね?」
「そうだね」
「だから、コングロマリット・ディスカウントを解消できれば、日経平均株価はもっと上がると思うんだ」
茜はコングロマリット・ディスカウントを解消すれば企業の株価は上がると言っている。
僕はその理屈が正しいことは分かる。理屈としてはそうなのだが……茜はどうやって解消するつもりだろうか?
***
話を進める前に、コングロマリット・ディスカウントについて説明しておこう。
コングロマリット・ディスカウントとは、コングロマリット(複合企業体)の企業価値が単体企業を合計した企業価値よりも下がることをいう。
コングロマリット(複合企業体)は世界中で異なる事業を展開している。業種も不動産、食品、通信、製造業などバラバラの企業体だ。
例えば、不動産セクターに投資したい投資家はコングロマリットに投資しない。コングロマリットには不動産セクター以外の余計な業種が含まれているからだ。
投資家からすれば、世界中の異なる事業を親会社が適切に管理できているかも疑問だし、投資家の興味ない国・業種の企業を運営しているかもしれない。
外部者である投資家がコングロマリットの実態を把握することは困難だ。要は、実態が分からない。
だから、投資家は保守的にコングロマリット企業を評価する。これが、コングロマリット・ディスカウントの原因になっている。
簡単な数値例でコングロマリット・ディスカウントを説明しよう。
図表69-3のA社はX社とY社を100%所有しており、他に資産・負債は何も有していない(ペーパーカンパニー)とする。
【図表69-3:コングロマリット・ディスカウントのイメージ】
※上記は単純化した図です。実際のコングロマリットは数十、数百の子会社・関連会社を有しています。
X社とY社の株式価値は100なのでA社の株式価値は200になるはずだ。
でも、子会社の数が多い場合やビジネスが複雑な場合、投資家は「子会社が多くて分からない!」とか「怪しい会社があるんじゃないかな?」と思う。
A社グループのことが分からない投資家は本来の価値200ではなく、保守的にA社の株式価値を150と評価する。この場合、A社のコングロマリット・ディスカウントは50だ。
日本におけるコングロマリット・ディスカウントの代表はソフトバンクグループだ。
まず、ソフトバンクグループの2023年12月末時点のNAV(Net Asset Value)は19.23兆円だ。このNAVは子会社や関連会社の持ち分を時価評価しているため、ソフトバンクグループの連結財務諸表の純資産とは一致しない。
一方、ソフトバンクグループの時価総額は10.7兆円(2024年2月8日終値)だ。
ソフトバンクグループは投資会社なので本来は保有している企業グループの純資産が時価総額となるはず。しかし、時価総額はNAVを大きく下回っており、その差は8.53兆円ある。
ソフトバンクグループのコングロマリット・ディスカウントは8.53兆円(NAV比44.3%)。もし、コングロマリット・ディスカウントがなければソフトバンクグループの時価総額は8.53兆円増えている。
ちなみに、ソフトバンクグループのNAVや時価総額は図表70を見てほしい。
【図表70:ソフトバンクグループのコングロマリット・ディスカウント】
※ソフトバンクグループのNAVについてはこちらをご覧下さい。
https://group.softbank/ir/stock/sotp
2024年1月末時点の東証プライムの時価総額は895兆円だ。ソフトバンクグループのコングロマリット・ディスカウントは東証プライムの時価総額を1%下げている。
ソフトバンクグループだけで東証プライムの時価総額を1%下げているのだから、コングロマリット・ディスカウントが株式市場全体の時価総額に与える影響が大きいことが分かるだろう。
<その2に続く>
日経平均株価の構成銘柄の編成に失敗した僕。インチキだと言われれば反論できない。
日経平均株価を5万円まで上げるためには企業の業績が良くなることを祈るだけではダメだ。企業業績に関係ない株価の変動要素にアプローチする考え方自体は間違っていない、と僕は思っている。
そう考えた僕は茜に相談する。
「あのさ、日経平均株価を5万円に上げるには企業の業績とは関係のない要素に対応する必要があると思うんだ」
「かもな。日本中の企業の業績が良くなるのを、指をくわえて待ってるわけにはいかないな」
「だから、日経平均株価の構成銘柄を変えればいいと思ったんだ……けどダメだった。他にアイデアはない?」
茜は「他にね……」と言いながら少し考えてから言った。
「そうだな、コングロマリット・ディスカウントは?」
「コングロマリット・ディスカウント?」
「知らない?」
「知ってるけど。コングロマリットの株式評価額が低くなる……ってやつだよね?」
「そう、それ! PBRが低い小さい上場企業は自社株買いすれば株価が上がると思う。でも、コングロマリット・ディスカウントがある上場会社は自社株買いしても、株価が上がりにくいよね?」
「そうだね」
「だから、コングロマリット・ディスカウントを解消できれば、日経平均株価はもっと上がると思うんだ」
茜はコングロマリット・ディスカウントを解消すれば企業の株価は上がると言っている。
僕はその理屈が正しいことは分かる。理屈としてはそうなのだが……茜はどうやって解消するつもりだろうか?
***
話を進める前に、コングロマリット・ディスカウントについて説明しておこう。
コングロマリット・ディスカウントとは、コングロマリット(複合企業体)の企業価値が単体企業を合計した企業価値よりも下がることをいう。
コングロマリット(複合企業体)は世界中で異なる事業を展開している。業種も不動産、食品、通信、製造業などバラバラの企業体だ。
例えば、不動産セクターに投資したい投資家はコングロマリットに投資しない。コングロマリットには不動産セクター以外の余計な業種が含まれているからだ。
投資家からすれば、世界中の異なる事業を親会社が適切に管理できているかも疑問だし、投資家の興味ない国・業種の企業を運営しているかもしれない。
外部者である投資家がコングロマリットの実態を把握することは困難だ。要は、実態が分からない。
だから、投資家は保守的にコングロマリット企業を評価する。これが、コングロマリット・ディスカウントの原因になっている。
簡単な数値例でコングロマリット・ディスカウントを説明しよう。
図表69-3のA社はX社とY社を100%所有しており、他に資産・負債は何も有していない(ペーパーカンパニー)とする。
【図表69-3:コングロマリット・ディスカウントのイメージ】
※上記は単純化した図です。実際のコングロマリットは数十、数百の子会社・関連会社を有しています。
X社とY社の株式価値は100なのでA社の株式価値は200になるはずだ。
でも、子会社の数が多い場合やビジネスが複雑な場合、投資家は「子会社が多くて分からない!」とか「怪しい会社があるんじゃないかな?」と思う。
A社グループのことが分からない投資家は本来の価値200ではなく、保守的にA社の株式価値を150と評価する。この場合、A社のコングロマリット・ディスカウントは50だ。
日本におけるコングロマリット・ディスカウントの代表はソフトバンクグループだ。
まず、ソフトバンクグループの2023年12月末時点のNAV(Net Asset Value)は19.23兆円だ。このNAVは子会社や関連会社の持ち分を時価評価しているため、ソフトバンクグループの連結財務諸表の純資産とは一致しない。
一方、ソフトバンクグループの時価総額は10.7兆円(2024年2月8日終値)だ。
ソフトバンクグループは投資会社なので本来は保有している企業グループの純資産が時価総額となるはず。しかし、時価総額はNAVを大きく下回っており、その差は8.53兆円ある。
ソフトバンクグループのコングロマリット・ディスカウントは8.53兆円(NAV比44.3%)。もし、コングロマリット・ディスカウントがなければソフトバンクグループの時価総額は8.53兆円増えている。
ちなみに、ソフトバンクグループのNAVや時価総額は図表70を見てほしい。
【図表70:ソフトバンクグループのコングロマリット・ディスカウント】
※ソフトバンクグループのNAVについてはこちらをご覧下さい。
https://group.softbank/ir/stock/sotp
2024年1月末時点の東証プライムの時価総額は895兆円だ。ソフトバンクグループのコングロマリット・ディスカウントは東証プライムの時価総額を1%下げている。
ソフトバンクグループだけで東証プライムの時価総額を1%下げているのだから、コングロマリット・ディスカウントが株式市場全体の時価総額に与える影響が大きいことが分かるだろう。
<その2に続く>