第4話 お役所仕事大作戦!(その2)

文字数 1,924文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 茜がドヤ顔で宣言したお役所仕事大作戦。
 具体的な作戦内容は僕には分からないけど、良くない作戦であることは想像できる。
 僕は茜に作戦の内容を確認する。

「でもさ、何もしなかったら政策提案にならないよね?」と僕は茜に尋ねる。

「ワトソン君、君はお役所仕事の本質を理解していない」
「ワトソンじゃないけど……本質って?」

「お役所仕事の定義だよ。お役所仕事とは具体的に何をすると思う?」
「役所に来た人の対応のこと……じゃないかな?」

「そうなんだけどさ。まず、区役所に用事があって住民が来たとしよう。そうだな……住民が受付で「家の前に木が倒れてきて困っている」と尋ねるわけだ。受付は住民にどこに行くように言うと思う?」
「木が倒れているなら、道路管理課かな?」

「いいねー。受付に案内されて住民は道路管理課に行く。道路管理課で住民は「家の前に木が倒れてきて困っている」と伝える。この時、道路管理課の担当者は住民に何て言うと思う?」
「木を撤去するように手配します……とかかな」
「ワトソン君、不正解だ!」

「不正解? じゃあ、何て言うんだよ?」
「正解は「あー、それは土木課ですね。土木課に行ってください」だ!」
「土木課ね……」

「住民はしかたなく土木課に行くだろ。土木課で住民は「家の前に木が倒れてきて困っている」と伝えるんだ。土木課の担当者は住民に何て言うと思う?」
「なんか分かってきたな……「あー、それはうちじゃないです。防災課に行ってください」かな?」
「ワトソン君、正解だ! よく理解してきたな」
「……ありがとう」

「次に住民が防災課に行くと、都市整備課を紹介される。そして、都市整備課では道路管理課に行ってくれと言われる」
「あれ? 道路管理課って最初に住民が行ったとこじゃない?」

「ワトソン君、よく覚えているな! そう、本日2回目の道路管理課への相談だ」
「道路管理課では土木課を紹介されるんだよね」

「そうだ。つまり、図に書くとこういう無限ループを繰り返すことになる」
「あー、なんか分かる。たらい回しだな」
「そう、それがお役所仕事の本質だ」

【図表35-2:お役所仕事の本質】



 茜はお役所仕事の定義を説明した上で話を続ける。

「住民は相談窓口を転々とするだけだ。役所は何もしない。でも、問題は解決する。何故だと思う?」
「この状況で問題が解決するの?」

「ああ、解決する。役所でたらい回しされた住民はこう思うはずだ。「はぁ、自分でやろう……」と」
「えぇ? 住民が自分で木を撤去するの?」
「そうだよ。役所が木を撤去しても、住民が木を撤去しても同じだろ?」
「そうだけどさ……」
「これで、道路に放置された木は撤去されるわけだ。一件落着!」
「はあ」

「ゼロゼロ融資でも、同じようにそれっぽいことをしたらいい」

 茜はこれと同じことをゼロゼロ融資でもやろうとしているらしい。

「例えば?」
「ゼロゼロ融資の返済についての相談窓口を設置するんだ」
「会社が相談にきても、対応しない系?」
「そう。似たような相談窓口を4つ作って、そこで無限ループを作ればいい」
「相談者が怒るよね?」
「怒るかもしれない。けど、4つの相談窓口に相談内容を説明するんだ。説明し終わった後、『あっ、それ別の窓口ですね』と言われる」
「可哀そうじゃない?」
「お役所仕事とはそういうものだ。相談者は何時間もたらい回しにされるから、最終的に諦める」
「酷くない?」
「酷くはない。役所の通常業務だ。それに、相談者は心配事を相談窓口に吐き出しているだろ。悩みを聞いてもらえるから、ちょっとは気持ちがスッキリすると思うんだ」
「でも、助けないんだよね?」
「助けないよ。お茶を濁すだけ。延滞してもらわないといけないからね」

 僕が困った顔で新居室長を見たら、同じような顔をしていた。僕たち公務員がどういう目で見られているか、現実を受け入れたくないのだ。

「まあ、相談窓口を4つ設置する、という案をインプットして垓でシミュレーションしてみようよ」と茜は言った。

「他に案がないし……しかたないわね」と新居室長もしぶしぶ承諾した。

 僕と茜はスーパーコンピューター垓に、ゼロゼロ融資の相談窓口設置をインプットした。この相談窓口は相談者の話をちょっと聞くだけで、たらい回しにする。何もしない。
 実に公務員的な発想だと僕は思った。

 垓のシミュレーションは15分で終了した。
 ゼロゼロ融資の返済開始2年延長案よりも長い。
 悪くはなさそうだが、良くもないシミュレーション時間だ。

 僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。

<その3に続く>
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