第7話 物納はどうかな?(その2)

文字数 1,759文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

<その1からの続き>

 内閣は物納を嫌がる国税庁を説得し、国税の納付における物納制度がスタートした。

 物納財産を国が収納するときの価額は、原則として相続税評価額となる。
 建物を入れると説明がややこしくなるので、ここでは土地で説明する。
 土地の評価方法は「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があり、路線価がある場合は路線価方式を採用し、路線価がない場合は倍率方式(固定資産税評価額に倍率をかけて相続税評価額を求める方法)を採用する。

 基本的には相続税評価額は実勢価格(時価)よりも低くなるように設定されているはずなのだが、それは都市部の話だ。地方の土地は、路線価や固定資産税評価額が実勢価格よりも高い場合がある。
 路線価や固定資産税評価額は、その地域の地価の変動(値上がりや値下がり)を反映して決まるのだが、大きく変動するわけではない。地価が大きく変動したとしても、税金を計算する路線価や固定資産税評価額を同じだけ変動させるわけにいかないからだ。
 つまり、地価が大きく値上がりしている地域、大きく値下がりしている地域は、路線価や固定資産税評価額と実績価格との乖離が生じる。

 この点に目を付けたのは個人ではなく企業だった。企業が支払う国税は法人税、消費税、従業員から徴収した源泉所得税などだ。その金額は個人が支払う金額よりも遥かに大きい。
 
 例えば、1,000億円の法人税を支払う会社が、地方の安い土地を500億円で購入したとする。その土地の相続税評価額が1,000億円だったとすると、物納を選択すると500億円得することになる。

 こうして、地方の「実勢価格<路線価」となっている土地が大企業に買い占められ、法人税・消費税の納税のために物納されていった。富裕層も同様の動きを見せた。

 地方の土地所有者は売れなくて困っていた土地を売却することができたのに加えて、実勢価格が徐々に上昇したことから、嬉しい悲鳴が聞こえてきたそうだ。

 2023年度の日本の一般会計歳入額(当初予算)のうち、所得税21兆円、法人税14.6兆円、消費税23.4兆円である。法人税と消費税の歳入額38兆円を原資として、地方の二束三文の土地が買い占められて、それらが全て物納されていったのだ。
 この結果、財務省が管理する国有地は日本の国土の50%を超えることとなった。

※財務省によれば、2021年度の国有地の面積は876.7万ha、国土の約25%を占めています。

 困ったのは地方自治体だ。今まで土地所有者から受け取っていた固定資産税が国有地となったことから、地方自治体の財政が悪化した。
 財政難の地方自治体は国会前に押し掛けてデモを実施した。

「国有地の固定資産税を払えーー!」
「物納を止めろーー!」

 一方の政府も税収のうち物納が増えたから、不足する資金を補填するため国債発行額を大幅に増やすことになった。地方自治体への交付金も増加し、膨らみ続ける国債は減る見込みがなくなった。

 ちなみに、空き家問題については効果があった。
 物納の対象に建物も含めたことから(建物の評価額はゼロであるが)、空き家は財務省が管理することになった。築古物件を再販できないと考えた財務省は、建物を取り壊していった。
 財務省の取り壊しによって空き家の数は劇的に減少した。

 ただ、件数が多かったので、取り壊しの方法が荒っぽかった。具体的には爆破解体だ。


“ドーーン!”
“ドーーン!”

 農作業中にどこかから爆破音が聞こえてくる。

「おっかー、今日もどこかで爆破してんなー」
「んだんだ。山田さんのことだっぺー」
「あー、山田さんとこかー。たしか、息子が農家継ぐのやだって、東京さ行ったんだな」
「んだんだ。そのドラ息子が物納したんだっぺー」

 爆破音が田舎の新たな風物詩となったのであった……

***

 垓のシミュレーション結果はこんな感じだった。

「これって、成功したのかな?」
 新居室長は自信なく僕と茜に尋ねる。

「どうでしょうね。ある意味……成功ともいえなくもない……ですね」と僕は言う。

 そんな僕を見ながら、「成功のわけねーじゃん……」と茜は苦笑している。

 僕たちの戦いはまだまだ続く……

 <第2章終わり>
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