第2話 消費税を増税しよう!(その2)

文字数 1,710文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

<その1からの続き>

 与党が国会で消費増税を可決しようとしたのだが、反対票を取り込みたい野党は増税反対を訴えた。マスコミも騒ぎ立てたことから、世間の大きな関心を集めた。

 テレビの討論番組では、消費税率を引き上げることの意義を説明する与党議員に対して、野党議員は国民の生活を守ることを大義として反対した。討論番組は双方の議論が全く嚙み合わず、最終的に殴り合いの喧嘩になったことから世間の注目を集めたようだ。

 マスコミが行った世論調査では、消費増税の支持・不支持が年代によって大きく分かれる結果が出た。

 大雑把にいうと、中年・若者世代は消費増税に理解を示した。消費増税の負担は生活を直撃するものの、国債を可能な限り償還して将来世代に迷惑を掛けたくない、という意識が高かったようだ。

 一方の高齢者は消費増税に大反対した。年金受給者は年金が増えないのに日々の出費が増えるわけだから、消費増税の負担は下の世代よりも大きい。どうせ国債は償還できないのだから次の世代に任せればいい、という意見もチラホラと見かけられた。

 連日の討論番組、ワイドショー、新聞、雑誌の影響により、消費増税は国民の話題を集めた。
 世代間の対立はますます過熱していく。

 消費増税を強行採択しようとしていた与党の中にも「国民の意見を聞くべきだ」と考える議員が増えていき、野党の反対を抑えきれなくなった。
 事態が収拾しないと判断した内閣は、「消費増税について、国民に信を問う!」と解散総選挙を実施した。

***

 解散総選挙において、与党は消費増税に賛成、野党は全て消費増税に反対する側にまわった。
 今回ばかりは政権を左右する総選挙になると考えた野党は、選挙協力をして徹底的に戦う姿勢を見せた。
 野党の選挙公約は消費税の廃止(消費税率0%)だ。いまの消費税率10%を廃止し、日本から消費税を無くすことを公約とした。

 激しい選挙戦が繰り広げられた。

 与党候補者は街頭で演説を繰り返している。

「将来世代に迷惑を掛けないために、私たちが責任ある行動をしようではありませんか!」
「私たちの失敗は、私たちの手で解決しましょう!」

 この選挙において、与党の立ち位置は今までとは完全に違っていた。
 かつての与党支持者であった高齢者はほとんど姿を見せない。代わりに若年層の聴衆が多かった。応援演説のために与党の有力議員がやってくると、子供連れの家族から盛大な歓迎を受けていた。
 しかし、与党候補者の街宣車が通るたび、街では高齢者の「老人を殺す気かーー!」という叫び声が聞こえるようになった。


 一方、野党候補者も全国で演説を繰り広げた。

「国民の生活を脅かす増税を阻止しましょう!」
「消費税をゼロに!」
「消費税なんかいらない!」

 野党候補者の演説には高齢者が列をなして拍手を送った。

***

 国民の信を問う解散総選挙……与党は大敗した。

 ほとんどの高齢者は野党に投票した。一部の若年層にも消費税廃止は魅力的だったようだ。

 元々、有権者のうち高齢者の占める割合が高い日本において、高齢者を敵に回したことは選挙の敗北を意味していた。
 解散総選挙の結果、与党は議席を10%に減らし、野党連合は議席数の90%を確保した。

 解散総選挙の後、野党連合は新しい内閣を組閣し、公約通り消費税の廃止を国会にて可決した。こうして、日本から消費税は無くなった。

 ただ、23.4兆円の消費税の消失は大きかった。消費税の廃止による財政赤字を埋めるため、国債の新規発行額は60兆円を超えた。
 国債発行以外の歳入は55兆円であったから、解散総選挙以降、歳出の半分以上は国債発行によって賄われることになったのであった。

 垓のダイジェスト映像はここで終わっていた。

***

「完全に失敗しましたね」
 垓のシミュレーション結果を見た僕は言った。

「減税を公約にする政治家はクソだな」と茜はイライラしている。

 日本の状況を全く理解せずに、選挙の為にカネをばら撒く。そんな政治家は日本に必要ない。

 僕はそう思うのだが……さて、次の案を考えよう。
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