第2話 介護ビジネスは数少ない日本の成長産業

文字数 2,277文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 オジハラは置いといて、介護ビジネスを検討することになった僕たち国家戦略特別室。
 まず、介護ビジネスが置かれている状況を説明しようと思う。

 介護業界に関わっている人間がどう感じるかは分からないが、介護ビジネスは投資家からは有望な市場と見られている。
 介護業界で働いている人は人不足で業務がかなり大変なのは理解している。でも、日本には成長が期待できる有力な産業がほとんどない。市場が飽和化した日本では、日本の事業を縮小して外国に進出する成長戦略しかないのだ。
 高齢者の数は今後も増え続けるから、介護ビジネス市場は今後も拡大していく。人口減少期に入った日本において、数少ない成長市場が介護ビジネスだ。だから、投資家は介護ビジネスに注目する。

 まず、介護ビジネスの話に入る前に、日本の年齢別人口構成を見てみよう。図表44は2021年10月時点の日本の人口ピラミッドだ。
 年齢別人口が多いのは第1次ベビーブームの75歳前後、第2次ベビーブームの50歳前後だ。この2つのコブが日本の人口のかなりの割合を占めていて、年齢が若くなるほど年齢別人口は減少していく。
 言い方を変えれば、2つのコブが無くなるまでの間、日本では超高齢化社会が続くことになる。

【図表44:日本の人口ピラミッド】

 
出所:総務省統計局

 次に、この年齢別人口がどのように変化するのかを見てみよう。
 年齢別人口の今までの推移と今後の予想を示したものが図表45だ。

【図表45:年齢別人口の推移・予想<単位:万人>】


※2020年までは実績値、2025年からは予想値
出所:内閣府『令和5年版高齢社会白書』

 2022年度の高齢者(65歳以上)の数は3,624万人だ。
 この人口推計によれば高齢者(65歳以上)の数は2045年の3,945万人まで増加を続け、その後ピークアウトする。原因は第1次ベビーブーム世代の死亡によるものだ。
 その後も第2次ベビーブーム世代はまだ生存しているから、2070年時点でも高齢者数は3,000万人以上である。
 高齢者の割合は、2022年度の29%から2070年には38.7%まで一貫して上昇する。高齢者数が高止まりするのと、出生率が低いため若年層人口が増えないためだ。


 さて、高齢者数の増加は要介護者の増加を意味する。だから、今後も要介護者の数が増えていくことが予想されている。要介護者数の過去の推移と2045年までの予想を示したのが図表46だ。

【図表46:要介護者数の予想】


出所:経済産業省

 経済産業省の作成した要介護者数の予想によれば、現在の要介護者数は約800万人であるが、2040年には約1,000万人まで増加していく。
 要介護者の増加に応じて介護職員も増やしていかなければいけないのだが、残念ながら介護職員の数を増やすのは難しい。

 介護職員の仕事は3K(きつい、汚い、危険)の代表格とされているにも関わらず、給与水準が他の業界よりも低い。さらに、職場の人間関係に問題があるケースが多く、介護労働安定センターが行った調査では、退職理由の第1位は『職場の人間関係に問題があったため(28~29%)』となっている。

※介護労働安定センター『介護労働実態調査』についてはこちらをご覧下さい。
https://www.kaigo-center.or.jp/report/2023r01_chousa_01.html

 つまり、体力的にキツイ仕事で、職場環境が良くない上に給与水準が低いときている。
 介護職員になろうと思う人間は一定数いるものの、退職する数が多い。つまり、定着率が良くないから数が増えないのだと思う。

 厚生労働省の2019年時点の試算(図表46-2)によれば、2023年現在で必要な介護職員の数は約233万人だ。それに対して介護職員は約211万人しかいないから約22万人不足している。介護職員を10%増やす必要があるのだ。
 さらに、不足する介護職員の数は2025年に約32万人、2040年には69万人と予想している。つまり、2040年までに介護職員を30%増やさないといけない。
 介護職員は大量に採用して増やしていかなければ、人員不足はますます深刻化していく。

【図表46-2:介護職員の必要数と不足数】


出所:厚生労働省

 **

 このように、介護サービス業界は慢性的な人員不足に悩まされる業界だ。それにも関わらず、投資家や異業種は成長産業として介護サービスに参入しようとする。

 実際に、介護ビジネスの買収・再編は頻繁に行われている。

 直近で起こった介護ビジネスの大型買収はニチイ学館だ。
 2023年11月29日に日本生命保険相互会社が介護最大手のニチイ学館を傘下に持つニチイホールディングスを約2,100億円で買収すると発表した。このニチイ学館は米投資ファンドのベインキャピタルが保有していた。
 つまり、投資ファンドも生命保険会社も介護ビジネスを成長産業として認識しているのだ。

 別の買収案件では、アジア系ファンドのMBKパートナーズが2021年に介護事業のツクイホールディングスをTOB(株式公開買い付け)によって取得した。MBKパートナーズは2023年にもユニマットグループの介護事業者を買収している。

 その他も大小問わず、介護事業者の買収は数多くある。そして、介護業界を専門に扱っているM&Aの仲介会社もある。
 それくらい介護ビジネスは投資対象として人気があるのだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み