第5話 志賀の提案(その2)

文字数 1,658文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

<その1からの続き>

 垓のシミュレーションは国会議員へのインタビューに切り替わる。

「大臣、〇〇自動車から賄賂を受け取っていたのは本当ですか?」
「覚えてない!」
「〇〇自動車株式を受取っていたことは分かっているんですよ!」
「だからっ、記憶にない!」
「大臣、どのように責任を取るつもりですか?」
「だからー、何のことか分からんっつーの!」

 大手自動車メーカーから関連法案に関わった国会議員に対して、賄賂が支払われていたことが分かったのだ。いわゆる汚職事件である。
 政治資金規正法に基づく寄附金として受け取っていれば問題なかったのだが、この国会議員は収支報告書に記載すると一般開示されるから、寄附金として金銭を受け取ることを拒んだ。
 この国会議員は大手自動車メーカーの株式を要求した。関連法案が可決すれば、大手自動車メーカーの株価は急上昇する。補助金を活用した完全自動運転車の買い替えスキームからかなりの利益が見込まれるからだ。
 大手自動車メーカーは国会議員への便宜のために自社株をオフショアファンドに割り当てたのだが、そのファンドを管理していた法律事務所がハッキングされて関連文書が流出した。
 ハッカーを雇ったのはトラックの業界団体だ、とまことしやかに囁かれている。

 国会議員と大手自動車メーカーの癒着によって、高速道路の自動運転の法律を撤回するべきだと議論が起こった。そこに乗っかったのがトラックの業界団体だ。

 業界団体は国会の前でデモを始めた。

「日本人ドライバーの雇用を守れー!」
「自動運転法案を撤回しろ―!」
「不正を許すなー―! 汚職を許すなー―!」
「『ドライバーの時間外労働時間年間960時間』を撤廃しろーー!」
「日本人ドライバーにもっと残業させろーー!」


 さらに業界団体はソーシャルメディアを使って国民の不安を煽り始めた。

 システムの誤作動で自動運転車にはねられる人の画像が拡散され、シンギュラリティ(人工知能(AI)が人類の知能を超える転換点)を越えた世界として映画ターミネーターを模倣した近未来画像が拡散された。

 デモ参加者は叫び続ける。

「ロボットに皆殺しにされるぞー!」
「AIの開発をやめろー!」
「人類の危機だー!」
「AI反対! ロボット反対!」

***

 垓のダイジェスト版映像はそこで終わっていた。
 外国人ドライバーの就労ビザ緩和と似たような結果になった。経緯は違うものの、最終的に業界団体が出てきてデモ+ニセ情報拡散するらしい。

「やっぱり、こいつらクソだな……」新居室長はボソッと言った。

「今回は大丈夫だと思ったんですけど……」
 僕は予想とは違った結果が出たことを謝罪した。

「私は、自動運転の案は良かったと思う。大手自動車メーカーと国会議員がズブズブじゃなければ、上手くいったのかな?」
 茜が言った。

「それよりも、業界団体を解散させた方が早くない?」
 新居室長は業界団体を目の敵にしているようだ。

「じゃあ、次のシミュレーションでは業界団体で内紛が発生したシナリオを追加しますか?」
 僕は新居室長と茜に確認する。

「まぁ、内部がゴタゴタしてたら、デモできないしな」
 新居室長は乗り気のようだ。

「トラックの業界団体を票田にしている国会議員が怒りませんか?」と茜。
「それは大丈夫じゃないかな。業界団体の内紛で動けないだけだから、何も言ってこないでしょ」
「そうかな……」

 僕はもう一つの懸念事項も聞いてみる。
「じゃあ、大手自動車メーカーと癒着している国会議員も失職させますか?」
「まぁ、そうすれば問題は出てこないな」

「いえ、ありますよー」と茜が発言した。
「どういう?」と新居室長は確認する。

「力の無い議員だと自動運転法案を国会で通せませんよ!」
「そっちかー。賄賂の渡し方を工夫するか」
「別のタックスヘイブンのファンドを使ってもらうとか……」
「汚職を正当化するのは、ちょっとなー」


 ここは国家戦略特別室。
 今日も議論は続く……
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