第4話 内閣支持率を30%に上げろ!(その2)

文字数 1,566文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「さらに、日本の制度も影響していると思う」と茜は話を続けた。

「制度ですか?」とレッド(国交省の田中)。

「ああ。首相が死亡したとする。その時、日本国民はどう思うか?」

 今度はグリーン(防衛省の鈴木)が挙手した。

「『自分から危ないところに行ったんだし……しかたないよね』であります!」
「グリーン(鈴木)、正解だ! よく分かってるじゃないか。日本国民は首相に興味ない。なんでだと思う?」

「国民性だと思います!」とブルー(財務省の山田)。

「ちがーーう!! 日本の首相は大統領ではないからだ。首相を選ぶのは誰だ?」

「与党議員と党員であります!」とイエロー(総務省の佐藤)。

「そうだ。大統領は国民が選挙で選ぶ。国民が自分で選んだ大統領だから興味がある。一方、首相は国民が選んでいないから興味がない。日本の首相は、国民にとって『よくテレビで見る人』や『どこかのオッサン』くらいの認識しかない」
「たしかに……」
「首相が死んでも国民は興味がない。だから、国際問題には発展しない」

 確かに、日本国民は首相が死んでも何も思わない。首相が死んだら、次の首相が与党で選出されて新首相が誕生する。
 とすると……首相の危険性は考慮する必要はない。つまり、①と②を進める障害はないわけだ。

 ただ、①と②を進めるにしても準備が必要だ。今から準備を始めても4月1日までには終わらない。そうすると、茜の狙いは③の内閣総辞職……ということになる。
 僕は茜に意図を確認する。

「首相が死ぬか死なないかははともかくとして、①と②は間に合わない。そうすると、実質的な選択肢は③になる。そういうことかな?」

「ピンク(志賀)、そういうことだ! 諸君は歴代内閣の発足時の支持率を知っているか?」
「40%くらいかなー」

 茜は「これを見たまえ」と言いながらスクリーンにグラフ(図表3)を映した。
 歴代内閣の発足時の支持率らしい。

【図表3:発足時支持率】


出所:毎日新聞


「一部の例外を除き内閣発足時は内閣支持率が30%を超える。これは、発足したばかりの段階では内閣の良し悪しが判断できないからだ。最初は支持率が高い。でも、時間が経過すると『こいつ、ダメじゃん……』となって支持率は低下していく」

 茜の言いたいことは理解した。理解したのだけれど……そうすると、僕たちの任務は内閣を総辞職させることになる。

「隊長、一つ確認したいんだけど」
「何だ?」
「僕たちの任務は首相に『辞職してくれ』と頼みに行くこと。だよね?」
「ピンク(志賀)、お前は呑み込みが早いな! そういうことだ」

 茜の発言にざわざわするレッド、ブルー、グリーンとイエロー。
 僕は慣れているから、そこまで驚いてはいない。

「諸君、沈まれ! 諸君がチェリー・ボーイズに変身したのには理由がある。ほら、取りにこい。諸君が使用するマスクだ」

 5色のマスクが5人の男性陣に配られた。
 茜は「それを被ってみろ」と言った。

「マスクを被れば面バレしない。それに、マスクの顎の部分にボタンがあるだろ? それはボイスチェンジャーだ」

 茜の説明でスイッチを入れる5人。

「ほんとだー。変な声―」
「誰だか分からないっすねー」
「隊長、さすがです!」
「闇バイトに使えそうだなー」

「おいっ! 『闇バイトに使えそう』って言ったの誰だ?」

 黙り込む5人。マスクの下の表情が見えないから、誰が言ったかは分からない。

「まぁいい。それを付けていけば、首相に誰が言ったか分からない。というわけで、諸君、検討を祈るぞ!」

 そういうと、茜は会議室から出ていった。

 僕たちのミッションは内閣を総辞職させること。
 内閣支持率を30%にするために!

 なんか本末転倒な気がするんだけど……気のせいかな?


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