第4話 国債をデフォルトさせよう!(その1)
文字数 1,920文字
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「他に何かいい案はないかな?」
消費税、所得税、法人税の増税にも失敗したにも関わらず、新居室長はまだ諦めていないらしい。
僕にはこれ以上考え付かない。茜の方を見たら、何か言いたげな顔をしている。
「何か思いついた?」
「返せないんだったら、返さなければいいじゃない」
「デフォルト(債務不履行)ってこと?」
「そう。どうせ全部償還するのは無理なんだから、「返せません!」って言えばいい」
「国債がデフォルトしたら、どんな影響が出るか……」
「具体的にイメージできないだけでしょ。どんな影響が出ると思う?」
茜は痛い所を突いてくる。
国債がデフォルトしたら悪いことがあるような気がするけど、たしかに、気がするだけだ。
「まず、インフレが起こるね」
「そうね。日本円の貨幣価値が下落するからインフレが起こる。実物資産の価値は変わらないから、同じものでも高くなる」
「そうだね。国民から文句を言われそうだ」
「言うでしょうね。でも、資産価値自体は変わらないんだから、長い目で見れば影響ないわよ」
「例えば?」
「給与はインフレに合わせて上がるから、長い目で見れば物価上昇分を賃上げで賄えるはず。短期的には賃金上昇が追い付かないかもしれないから、マスコミは『悪いインフレ』と言いそうだけどね」
「そうなるよね。インフレに良いも悪いもないんだけど……世論は荒れるよね」
「長期的には物価と賃金は均衡するはずだから、短期的なインフレに耐えれば問題ない。不動産などの実物資産はインフレで値上がりするから、資産価値には特に影響はない」
「現金預金から実物資産に切り替えておけば問題ないってことだね?」
「そういうこと」
「そうすると……インフレはそんなに問題にならないのかな……」
「他には?」と茜は言う。
「日本円の価値が暴落するね」と僕は言った。
「円安だね。日本円の価値が暴落するデメリットは?」と茜は僕に質問した。
「海外から輸入する仕入価格が上がる」
「そうね。でも、海外売上は増えるよ?」
「そうだね。輸出企業は儲かるね」
「製造業は日本で生産するようになるよね?」
「雇用が増えそうだね」
「円安だから、海外から日本への投資が増えるよね?」
「そうだね。設備投資も増えそうだね」
「何か問題ある?」
確かに……実害はそんなにないかも知れない。
でも、何か落とし穴があるはずだ。例えば……
「輸入企業は利益が出なくなるよね。それはいいの?」と僕は茜に尋ねた。
「いいんじゃない。志賀が想定している輸入企業ってどこ?」
茜は逆に僕に質問してきた。僕はしかたなく考える。
「うーん。日本は資源が少ないから、資源の輸入のインパクトは大きいと思うんだ。例えば、石油、石炭、天然ガスとか」
「確かに化石燃料は値上がりするね。でも、化石燃料のほとんどは燃料や発電に使うわけだから、再生可能エネルギー(再エネ)に切り替えればいい。そうすれば、再エネが普及するきっかけになるんじゃない?」
「そうだけど……日本でそんなに早く再エネが普及するかな?」
「円安で日本に投資しやすくなってるから、いくらでも海外企業が参入してくるんじゃないかな」
「揉めそうだね…」
「いいのよ。自由競争とは揉めることを言う!」
茜は勝手な理論を展開している。垓でシミュレーションしたら、結果が想像できそうな気がする。
「自動車は?」
「EV(電気自動車)!」
「日本の自動車メーカーが文句言いそうだな……」
「いいのよ。自由競争!」
茜の正論がどこまで通じるかは分からない。既得権益を守りたい企業と新規参入する企業が揉めるかもしれないが、思っていたよりも影響は軽いのかもしれない。
他に案もないし、国債デフォルトのシナリオを試してみる価値はありそうだ。
僕は新居室長に「国債デフォルトのシナリオをシミュレーションしてみませんか?」と提案した。
新居室長は少し嫌な顔をした。が「一応、やってみようか…」としぶしぶ承諾した。新居室長も別の案を思い付かないからだ。
僕と茜はスーパーコンピューター垓に、国債をデフォルトさせるシナリオをインプットした。
垓がシミュレーションを開始した。
垓のシミュレーションは20分で終了した。
シミュレーションの時間はさっきよりも長い。それなりに時間が掛かったから、今回は期待できそうだ。
「今回はいけるんじゃないですか?」という僕に、新居室長は渋い顔をしている。
もしこのシナリオが成功したとしても、国債デフォルトを政府に提案しにくいのだろう。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その2に続く>
「他に何かいい案はないかな?」
消費税、所得税、法人税の増税にも失敗したにも関わらず、新居室長はまだ諦めていないらしい。
僕にはこれ以上考え付かない。茜の方を見たら、何か言いたげな顔をしている。
「何か思いついた?」
「返せないんだったら、返さなければいいじゃない」
「デフォルト(債務不履行)ってこと?」
「そう。どうせ全部償還するのは無理なんだから、「返せません!」って言えばいい」
「国債がデフォルトしたら、どんな影響が出るか……」
「具体的にイメージできないだけでしょ。どんな影響が出ると思う?」
茜は痛い所を突いてくる。
国債がデフォルトしたら悪いことがあるような気がするけど、たしかに、気がするだけだ。
「まず、インフレが起こるね」
「そうね。日本円の貨幣価値が下落するからインフレが起こる。実物資産の価値は変わらないから、同じものでも高くなる」
「そうだね。国民から文句を言われそうだ」
「言うでしょうね。でも、資産価値自体は変わらないんだから、長い目で見れば影響ないわよ」
「例えば?」
「給与はインフレに合わせて上がるから、長い目で見れば物価上昇分を賃上げで賄えるはず。短期的には賃金上昇が追い付かないかもしれないから、マスコミは『悪いインフレ』と言いそうだけどね」
「そうなるよね。インフレに良いも悪いもないんだけど……世論は荒れるよね」
「長期的には物価と賃金は均衡するはずだから、短期的なインフレに耐えれば問題ない。不動産などの実物資産はインフレで値上がりするから、資産価値には特に影響はない」
「現金預金から実物資産に切り替えておけば問題ないってことだね?」
「そういうこと」
「そうすると……インフレはそんなに問題にならないのかな……」
「他には?」と茜は言う。
「日本円の価値が暴落するね」と僕は言った。
「円安だね。日本円の価値が暴落するデメリットは?」と茜は僕に質問した。
「海外から輸入する仕入価格が上がる」
「そうね。でも、海外売上は増えるよ?」
「そうだね。輸出企業は儲かるね」
「製造業は日本で生産するようになるよね?」
「雇用が増えそうだね」
「円安だから、海外から日本への投資が増えるよね?」
「そうだね。設備投資も増えそうだね」
「何か問題ある?」
確かに……実害はそんなにないかも知れない。
でも、何か落とし穴があるはずだ。例えば……
「輸入企業は利益が出なくなるよね。それはいいの?」と僕は茜に尋ねた。
「いいんじゃない。志賀が想定している輸入企業ってどこ?」
茜は逆に僕に質問してきた。僕はしかたなく考える。
「うーん。日本は資源が少ないから、資源の輸入のインパクトは大きいと思うんだ。例えば、石油、石炭、天然ガスとか」
「確かに化石燃料は値上がりするね。でも、化石燃料のほとんどは燃料や発電に使うわけだから、再生可能エネルギー(再エネ)に切り替えればいい。そうすれば、再エネが普及するきっかけになるんじゃない?」
「そうだけど……日本でそんなに早く再エネが普及するかな?」
「円安で日本に投資しやすくなってるから、いくらでも海外企業が参入してくるんじゃないかな」
「揉めそうだね…」
「いいのよ。自由競争とは揉めることを言う!」
茜は勝手な理論を展開している。垓でシミュレーションしたら、結果が想像できそうな気がする。
「自動車は?」
「EV(電気自動車)!」
「日本の自動車メーカーが文句言いそうだな……」
「いいのよ。自由競争!」
茜の正論がどこまで通じるかは分からない。既得権益を守りたい企業と新規参入する企業が揉めるかもしれないが、思っていたよりも影響は軽いのかもしれない。
他に案もないし、国債デフォルトのシナリオを試してみる価値はありそうだ。
僕は新居室長に「国債デフォルトのシナリオをシミュレーションしてみませんか?」と提案した。
新居室長は少し嫌な顔をした。が「一応、やってみようか…」としぶしぶ承諾した。新居室長も別の案を思い付かないからだ。
僕と茜はスーパーコンピューター垓に、国債をデフォルトさせるシナリオをインプットした。
垓がシミュレーションを開始した。
垓のシミュレーションは20分で終了した。
シミュレーションの時間はさっきよりも長い。それなりに時間が掛かったから、今回は期待できそうだ。
「今回はいけるんじゃないですか?」という僕に、新居室長は渋い顔をしている。
もしこのシナリオが成功したとしても、国債デフォルトを政府に提案しにくいのだろう。
僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。
<その2に続く>