第2話 入社式までに桜を咲かせろ!(その2)

文字数 1,552文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「日本の東証プライム上場企業は春に桜が咲くから、花粉症を我慢して日本に本社を置いている。つまり、桜が咲かないと東証プライム上場企業は本社を外国に移す」

 東証プライム上場企業の年間売上高は、トヨタ37兆円、三菱商事21兆円、ホンダ16兆円……と続く。もし、アンケート結果の通り30%が本社移転すれば、相当な法人税の減収が見込まれる。
※販社、工場などは日本国内であっても、最終的な課税利益を日本国外に設定すれば、日本で支払う税額が大幅に減少します。

 政府高官が言った「花粉症が日本国家を脅かす」とはこのことらしい。
 花粉症に苦しんでいるものの、花見ができるから日本に本社を置いている。
 つまり、桜が咲かないと日本の税収は大幅に減る。社会保障費の増加が見込まれている中で大幅な税収減は日本国家を脅かすことになる。

「今年は桜の開花が遅れているようだ。そうだな、君。どうなれば桜が開花するか知っているか?」

 茜は財務省の山田を指した。

「桜は寒い期間と暖かい期間がないと咲きません。今年は暖冬でした。つまり寒い期間が短かったから桜が開花しないのではないかと……」

 山田は知っている知識から模範的な回答を出したように思えた。しかし、

「ちがーう! ぜんぜん、ちがーう!」

 茜は手をクロスして「×」を作っている。こうやってジャンプするグループあったな……
 一方、怒られた山田は嬉しそうだ。

「昨日、私は垓を使って桜の開花と相関が高い事象を調べたんだ。そしたら、ほぼ1(100%)の相関係数を有する事象を発見した」

「それは何ですか?」前のめりで質問する山田。

「聞きたい?」
「聞きたいです!」

 茜は一呼吸してから言った。

「それはな……内閣支持率だ。正確には内閣支持率が30%を超えないと桜は開花しない。志賀、今の内閣支持率は何パーセントだ?」

 いきなり話を振られた僕。たしか……10%くらいだったような気が……違ったかな?

「10%?」
「おしい、9%だ」

「消費税の税率より低いのかー」
「その言い方は正確ではないぞ。消費税の軽減税率は8%だ。つまり、今の内閣支持率は消費税の軽減税率より高く、標準税率より低い」
「そんな細かいこと……誰も気にしないって」

 山田(財務省)が僕を睨んでいる。僕の茜への苦言が気に入らなかったらしい。

 それにしても、内閣支持率は9%。これを30%に上げないと桜は開花しない。
 桜が開花しないと東証プライム上場企業は本社を別の国に移転する。
 そうなれば、日本国家は崩壊の危機へ……桜の開花が日本国に与える打撃は計り知れない。

「君たちのミッションは『入社式までに桜を咲かせろ!』だ。桜を咲かせるために、君たちに内閣支持率を30%まで引き上げてもらう」

「えぇっ?」
 不満を言う僕を、また山田が睨んだ。後輩のくせに生意気な。

「君たち5人は一つのチームだ。そして私が君たちの上官だ。私のことは『隊長』と呼ぶように。それと、返事は『イエッサー』だ!」

「「「「隊長、イエッサー!」」」」

 僕は「お前、男じゃないだろ!」と言いたいのを我慢した。また山田に睨まれる。
 それに、女性なら「マム」を使うべきなのだろう。けど、茜はマムの年代ではない。

※「マム(Ma'am)」は高齢女性に対して使う用語です。40~50代女性に「マム」を使うと「私そんなに歳じゃないけど……」みたいな顔をされます。女性に対して安易に使わない方がいいかもしれませんね。

 茜はニヤニヤしながら話を続ける。

「お互いに協力してミッションをコンプリートしてほしい。ちなみに、君たちのチーム名は決めてある。『チェリー・ボーイズ』だ!」

 ――はぁ、もう……やだ
 
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