第6話 もう1回、行ってこいやーーー!(その1)

文字数 1,486文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
また、本話には少し過激な表現が含まれます。決してマネしないで下さい。

 首相を前にして「内閣総辞職して下さい」と言い出せなかった僕たち。
 首相官邸で記念撮影し、だんだんめんを食べて戻ってきた。

 ミッションに失敗した僕たちは落ち込んでいる。
 会議室に入ると茜が立っていた。

 僕たちが入室しドアが閉まったことを確認した後、茜は「どうだった?」と静かに尋ねた。

「いやー」と申し訳なさそうにするイエロー(総務省の佐藤)。

「だから、どうだった?」
「……」

 沈黙が続く会議室。
 茜はブルー(財務省の山田)のマスクを剥がした。

「なあ? どうだったって聞いてるよな?」

 茜を直視できないブルー(財務省の山田)。何も言わない。

 “バンッ”

 ブルーはビクッと身体を強張らせた。
 茜がブルーのマスクを床に投げつけたのだ。

 ブルー(財務省の山田)は静かに床に正座し、茜の方に頭を下げた。

「すいませんでしたーー!」

「申し訳ありませーーん!」と土下座するイエロー(総務省の佐藤)。
「ダメでしたーーーーー!」と土下座するレッド(国交省の田中)。
「すいませんでしたーー!」と土下座するグリーン(防衛省の鈴木)。

 茜は僕を見た。

「ピンク(志賀)ーーー! お前だけ、なんで立ってんだよーーー?」

 僕を見る男4人。目で僕の土下座を要求している。

 僕が土下座すれば……円滑に収まるのだったら。
 しかたなく、僕も「すいませんでした」と土下座した。

 僕は横をチラッと見たが、誰も顔を上げない。
 しばらくしたら茜が発言した。

「諸君、顔を上げたまえ!」

 ようやく顔を上げたチェリー・ボーイズ。

「誰でも一度や二度の失敗はある。失敗しても、次はある」と茜は静かに言った。

 レッド(国交省の田中)は「ありがとうございます!」目を潤ませている。

「諸君、分かっているな?」
「「「「イエッサー!」」」」

「もう1回、行ってこいやーーー!」
「「「「イエッサー!」」」」

 僕たちは駆け足で会議室を退室した。
 とはいえ、このまま首相官邸に突撃しても玉砕することは目に見えている。

「作戦会議しないか?」と僕は提案して、空いている会議室に4人を入れた。

「このまま突撃するのは止めた方がいい。首相に『辞職する』と言わせるための材料が必要だよね?」

 僕の問いかけに「こういうのはどうですか?」とグリーン(防衛省の鈴木)が言った。

「どういうの?」
「ベルリンの壁と同じです。ベルリンの壁は勘違いで崩壊しましたよね?」
「そうだね」

※1989年11月9日、東ドイツを率いる社会主義統一党のスポークスマンだったギュンター・シャボウスキーが勘違いし、「すべての検問所から出国が認められる」、「ただちに発効される」と失言したことにより、ベルリンの壁は崩壊しました。

「同じように、官房長官の原稿に『首相は辞めた』と入れてしまえばいいんです。官房長官は原稿を読むだけですから。それを聞いたマスコミ、国民は、首相は辞任したと思うわけです」
「へー」

 グリーンの作戦は首相が辞任した既成事実を作るものらしい。

「それで、官房長官の原稿に誰が入れるの?」と僕はグリーンに質問した。

 グリーン(防衛省の鈴木)は僕(ピンク)を指差す。
 僕の勤務先は内閣府だ。グリーンは僕が官房長官の原稿を作っていると思っているらしい。

「僕の部署は国家戦略を作るだけ。だから、政府の原稿なんて作らないよ」
「えぇっ? そうなんですか?」
「そうだよ」

 グリーン(防衛省の鈴木)はガッカリしている。

<その2に続く>
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