第4話 外国から介護人材を採用しよう!(その2)
文字数 2,365文字
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
レポーターは鈴木さんから見せられた中国の人口ピラミッドを見ている。
「中国は人口が多いから日本よりも酷い高齢化社会になるのですね」
「そうです。中国は国内で介護職員の採用を頑張っているようですが、全然数が足りていないのでしょう。だから、どんな手を使っても海外から介護職員を中国に引っ張ってこないといけないんです」
レポーターは少し考えてから鈴木さんに尋ねた。
「どんな手を使っても……と仰いましたが、まさか、誘拐したりとか?」
「それはないです。あるかも知れませんが……それは、私は分かりません」
「じゃあ、具体的に中国への斡旋は日本への斡旋と何が違うのでしょうか?」
「そうですね……例えば、日本は介護職員として外国人を斡旋する場合に、日本語の習得が必要になりますよね?」
「そうでしょうね。日本語が話せないと、介護職員と被介護者がコミュニケーションできないから、介護サービスが円滑に提供できませんね」
「だから、日本の介護事業者に人材を紹介するときには、当社で斡旋可能なベトナム人のリストを見せたら『この人とこの人』のように個別に指定します」
「いい人に来てほしいですからね。ホスピタリティ重視ですね」
レポーターは介護職員が日本語を話せて当然と思っているし、介護の質を維持するために良い人材を斡旋してほしいと考えているようだ。
「でも、他の国は違うんですよ。例えば、中国の介護事業者に斡旋可能なベトナム人のリストを見せたとしましょう。そうしたら『1ページ目から5ページ目まで全員』と言いますね。人数にすると100人~300人を一度に中国に連れて行こうとします」
「中国語を話せなくてもいいんですか?」
「えぇ、全然気にしません。私も何度か確認したことがあります。けど、『中国に連れて行ってから教えるから問題ない』と言っていました」
「後で、ですか……逆に言えば、それくらい切迫しているんですね」
「そうだと思います。中国の介護事業者にとっては、まず、人数を確保することが最優先事項です。言語や知識は後で教えれば何とかなると考えているようです」
「それだと、日本の介護事業者とは競争になりませんね」
「えぇ、他の国も中国ほどではないものの、そんなに選り好みしませんね」
「さっき話に出たドイツもですか?」
「中国ほどではありませんけど、ドイツも似たようなものです。日本の介護事業者が選り好みしすぎるんですよね。だから、日本に外国人の介護職員を斡旋できないんです」
レポーターはショックを受けている。レポーターは日本には外国から来た介護職員がたくさんいると聞いていたのだろう。鈴木さんの話はレポーターが聞いていた話と違っていた。
「介護職員の給与が上がりましたよね。少しは日本に来たいと考えるベトナム人は増えたんじゃないでしょうか?」
「まぁ、少しは増えました。ただ、介護職員の給与が増えたといっても正社員の話ですよね。外国人労働者は元々賃金が高くありませんから、あまり増えたという印象はありませんね」
「そうなのですね……知りませんでした」
「そうそう、日本に憧れを持っているベトナム人はたくさんいます。日本で働きたいベトナム人もたくさんいます。だから、『日本に住みたい』、『日本で働きたい』と思って日本語を熱心に勉強しているベトナム人は多いです」
「であれば……日本に来る外国人の介護職員は増えるんじゃ……」
納得しないレポーターに対して、鈴木さんはどう説明するか悩んでいる。
「でもね、よく考えて下さい。介護職員の給与は高くないし、拘束時間は長いです。サービス残業もあるでしょう。だから、介護職員の給与を時給換算したらコンビニのアルバイトとほとんど変わらないんです」
「コンビニのアルバイトと同じですか?」
「介護職員の方がちょっと高いでしょう。でも、ほとんど同じ時給と思って下さい。ベトナム人が日本での就職を希望する場合、日本で介護職員として働くよりも、セブンイレブンやファミリーマートで働いた方が楽だと考えるのは自然ですよね?」
「はぁ、そうですね」
「日本で働きたい外国人はたくさんいます。でも、どの業界も人材不足です。だから、わざわざ介護業界でなくてもいいんです。給与が同じなら楽な仕事に就きたい。そうすると、給与水準が同じくらいで、なるべく楽な業種で外国人は働くんです」
「……」
レポーターは鈴木さんにインタビューを続ける。
「外国から介護職員を斡旋するためには、何が必要だと思いますか?」
「外的要因と内的要因がありますね」
「この場合の外的要因とはなんでしょうか?」
「競合のことです。中国などをイメージして下さい」
「具体的な対策は?」
「まず、選り好みしないこと。そうしないと、他の国に勝てません」
「お話を聞いていると、そういうことですね。選り好みしていては、中国などの競合相手に太刀打ちできませんね」
「そういうことです」
「それでは、内的要因とは何でしょうか?」
「給与水準です」
「給与水準ですか? 上がったと思うのですが」
「全然足りません。少なくとも介護職員の給与をコンビニのアルバイトの倍以上に設定することですね」
「介護職員の給与が相当高くないと仕事が楽な職種に流れてしまう、ということですね」
「そうです。これは日本国内での問題です」
しばらく二人の話は続いたが、海外から介護職員を呼び寄せることは難航していることが分かった。
***
垓のシミュレーション結果を見た僕たちはため息をついている。
「介護職員の給与があがれば、人は増えると思ったんだけどなー」と茜は悔しそうにしている。
僕も同意見だ。介護職員の不足はお金だけでは解決しないのかもしれない。
さて、次の案を考えよう。
レポーターは鈴木さんから見せられた中国の人口ピラミッドを見ている。
「中国は人口が多いから日本よりも酷い高齢化社会になるのですね」
「そうです。中国は国内で介護職員の採用を頑張っているようですが、全然数が足りていないのでしょう。だから、どんな手を使っても海外から介護職員を中国に引っ張ってこないといけないんです」
レポーターは少し考えてから鈴木さんに尋ねた。
「どんな手を使っても……と仰いましたが、まさか、誘拐したりとか?」
「それはないです。あるかも知れませんが……それは、私は分かりません」
「じゃあ、具体的に中国への斡旋は日本への斡旋と何が違うのでしょうか?」
「そうですね……例えば、日本は介護職員として外国人を斡旋する場合に、日本語の習得が必要になりますよね?」
「そうでしょうね。日本語が話せないと、介護職員と被介護者がコミュニケーションできないから、介護サービスが円滑に提供できませんね」
「だから、日本の介護事業者に人材を紹介するときには、当社で斡旋可能なベトナム人のリストを見せたら『この人とこの人』のように個別に指定します」
「いい人に来てほしいですからね。ホスピタリティ重視ですね」
レポーターは介護職員が日本語を話せて当然と思っているし、介護の質を維持するために良い人材を斡旋してほしいと考えているようだ。
「でも、他の国は違うんですよ。例えば、中国の介護事業者に斡旋可能なベトナム人のリストを見せたとしましょう。そうしたら『1ページ目から5ページ目まで全員』と言いますね。人数にすると100人~300人を一度に中国に連れて行こうとします」
「中国語を話せなくてもいいんですか?」
「えぇ、全然気にしません。私も何度か確認したことがあります。けど、『中国に連れて行ってから教えるから問題ない』と言っていました」
「後で、ですか……逆に言えば、それくらい切迫しているんですね」
「そうだと思います。中国の介護事業者にとっては、まず、人数を確保することが最優先事項です。言語や知識は後で教えれば何とかなると考えているようです」
「それだと、日本の介護事業者とは競争になりませんね」
「えぇ、他の国も中国ほどではないものの、そんなに選り好みしませんね」
「さっき話に出たドイツもですか?」
「中国ほどではありませんけど、ドイツも似たようなものです。日本の介護事業者が選り好みしすぎるんですよね。だから、日本に外国人の介護職員を斡旋できないんです」
レポーターはショックを受けている。レポーターは日本には外国から来た介護職員がたくさんいると聞いていたのだろう。鈴木さんの話はレポーターが聞いていた話と違っていた。
「介護職員の給与が上がりましたよね。少しは日本に来たいと考えるベトナム人は増えたんじゃないでしょうか?」
「まぁ、少しは増えました。ただ、介護職員の給与が増えたといっても正社員の話ですよね。外国人労働者は元々賃金が高くありませんから、あまり増えたという印象はありませんね」
「そうなのですね……知りませんでした」
「そうそう、日本に憧れを持っているベトナム人はたくさんいます。日本で働きたいベトナム人もたくさんいます。だから、『日本に住みたい』、『日本で働きたい』と思って日本語を熱心に勉強しているベトナム人は多いです」
「であれば……日本に来る外国人の介護職員は増えるんじゃ……」
納得しないレポーターに対して、鈴木さんはどう説明するか悩んでいる。
「でもね、よく考えて下さい。介護職員の給与は高くないし、拘束時間は長いです。サービス残業もあるでしょう。だから、介護職員の給与を時給換算したらコンビニのアルバイトとほとんど変わらないんです」
「コンビニのアルバイトと同じですか?」
「介護職員の方がちょっと高いでしょう。でも、ほとんど同じ時給と思って下さい。ベトナム人が日本での就職を希望する場合、日本で介護職員として働くよりも、セブンイレブンやファミリーマートで働いた方が楽だと考えるのは自然ですよね?」
「はぁ、そうですね」
「日本で働きたい外国人はたくさんいます。でも、どの業界も人材不足です。だから、わざわざ介護業界でなくてもいいんです。給与が同じなら楽な仕事に就きたい。そうすると、給与水準が同じくらいで、なるべく楽な業種で外国人は働くんです」
「……」
レポーターは鈴木さんにインタビューを続ける。
「外国から介護職員を斡旋するためには、何が必要だと思いますか?」
「外的要因と内的要因がありますね」
「この場合の外的要因とはなんでしょうか?」
「競合のことです。中国などをイメージして下さい」
「具体的な対策は?」
「まず、選り好みしないこと。そうしないと、他の国に勝てません」
「お話を聞いていると、そういうことですね。選り好みしていては、中国などの競合相手に太刀打ちできませんね」
「そういうことです」
「それでは、内的要因とは何でしょうか?」
「給与水準です」
「給与水準ですか? 上がったと思うのですが」
「全然足りません。少なくとも介護職員の給与をコンビニのアルバイトの倍以上に設定することですね」
「介護職員の給与が相当高くないと仕事が楽な職種に流れてしまう、ということですね」
「そうです。これは日本国内での問題です」
しばらく二人の話は続いたが、海外から介護職員を呼び寄せることは難航していることが分かった。
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垓のシミュレーション結果を見た僕たちはため息をついている。
「介護職員の給与があがれば、人は増えると思ったんだけどなー」と茜は悔しそうにしている。
僕も同意見だ。介護職員の不足はお金だけでは解決しないのかもしれない。
さて、次の案を考えよう。