第1話 新しい税金を考えよう!(その2)

文字数 2,575文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕は別の切り口から考えることにした。日本独自の変わった税金といえば……

「そういえば、日本独自の税金に入湯税がありますね」と僕は新居室長に言った。
「入湯税は温泉文化のある日本独自の税金だね。観光地で財布のひもが緩くなっているのを狙った税金だから、ありだよね」

※温泉を使った入浴施設に入ったときは入湯税(市町村税)がかかります。法律上は1人1日150円を標準としていますが、市町村ごとに金額を設定できます。

「そうですよね。入湯税を払うのを躊躇う人は少なそうです。そういえば、観光地といえば宮島(広島県)が入島税を始めましたね」
「あれはみんな払うよね。たった100円だし、それくらいに観光コースを変えるわけないし」

※世界遺産・厳島神社がある宮島(広島県廿日市市)を訪れた人から、1人100円を徴収する「宮島訪問税」が2023年10月1日に導入されました。

 僕は人が払ってもいいと感じる税金を考えてみる。趣味であればある程度「税金を払ってもいい」と思う人もいるはずだ。

「趣味にはお金を使いますよね。ゴルフ場利用税はその典型例だと思いますけど、「税金が掛るからゴルフしない」という人は少ないです」
「そうねー。アイドルのコンサートに課税したら払うかな? この場合は『アイドル税』とか『オタク税』とか呼ぶのかな」
「あー、払うかもしれませんね」

※ゴルフ場利用税はゴルフ場の規模や整備状況によって1級から8級までに分類されています。一人当たりの税額は400円~1,200円です。


 僕と新居室長が盛り上がっていたら、茜が「東京に入る時に税金取ればいいんじゃない?」と言い出した。
 僕は映画で見たことがある。『飛んで●玉』では、埼玉から東京に入る際に関所を通らないといけなかった。

「東京は通勤で通る人が多いから、莫大な税収になると思うなー」と茜は呑気そうだ。

「そんなことしたら、日本経済が大打撃を受けるって」
「別にそんなことないと思うけど。だって、首相はデジタル田園都市構想とか言ってるだろ。あれは地元で働けってことだ。東京で働く場合は、通行料として1人100円徴収すればいいんだよ」
「いやー、無理だって。そもそも、どうやって通行料を徴収するの?」
「そうだなー。電車の運賃に100円加算すればいいんじゃない」
「電車の運賃に加算するの?」
「例えば、田園都市線だったら二子玉川から東京方面に乗ったら加算されないけど、二子新地から東京方面に乗ったら100円加算される……みたいな」
「そんなことしたら、川崎市民はみんな歩いて多摩川渡るよね」
「まぁ、そうなるかもな。でもさ、運動になっていいんじゃない?」

「却下です!」新居室長は言い切った。

 『飛んで●玉』の通行税を却下された茜は次の税金を考えている。

「じゃあさ、琵琶湖の水使用量として京都府民に税金を払ってもらうのは? 滋賀県民は京都府民にいつも「琵琶湖の水止めたろか!」と言ってるらしいね」
「まぁ、そういう説もあるな」
「そうすると……税金の名称は『琵琶湖の水止めるんだぜい(税)』だな」
「『飛んで●玉』とスギちゃんが混ざったような税金だな……。それに、京都府民だけに税金を押し付けるのはどうかと思うよ……」

「却下です!」新居室長は言い切った。

 いろいろ案が出た。使えそうなものも、使え無さそうなものも。
 僕は「試しに、どれか垓でシミュレーションしてみます?」と新居室長に尋ねた。

「どれかって言われても……どれがいいかな?」新居室長は迷っている。

「『琵琶湖の水止めるんだぜい(税)』は論外として……波風が立ちにくそうなのは渋滞税ですかね。エリアも限られますし、環境対応といえば説明しやすそうです」
「じゃあ、渋滞税かな。でも、自動車業界が反対しないかな?」
「試しにシミュレーションするだけですから、いいじゃないですか」僕は新居室長を諭す。

「まぁ、試しにだから……いいか」と新居室長は承諾した。

 僕はスーパーコンピューター垓に、渋滞税の施行をインプットした。対象範囲は東京都と大阪府の主要駅周辺とした。他のエリアも追加することも考えたが、あまりに対象エリアを広げすぎると批判が出ると思ったからだ。

 垓のシミュレーションは1分で終了した。この時間は失敗だな。

 僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。

 ***

 僕たちは垓のシミュレーション結果を見ている。

 国会において渋滞税の施行が可決された。東京都と大阪府の主要駅周辺に自家用車で侵入する場合、一日当り1,000円の渋滞税が課されることとなった。

 垓のダイジェスト映像は東京駅周辺を映し出している。渋滞税が施行されたため、駅周辺には渋滞税が免除されたバス、タクシーなどの公共交通機関の車がほとんどだ。一般の車両は通行しているものの台数が少ない。主要駅の周辺の渋滞は大幅に改善されたようだ。

 映像は東京駅から少し離れた国道を映し出した。こちらは車の渋滞が酷い。
 レポーターが渋滞情報を伝えている。

「えー、本日も渋滞税対象エリアからの迂回によって、この道路は大変混雑しています。トラック運転手、宅配ドライバーはこの道を通らないといけないようで、物流関係者には評判が悪いようです」

 主要駅周辺で渋滞が減った分、周辺道路の渋滞が発生したようだ。ただ、全体の交通量は減ったようだから、深刻な渋滞にはなっていない。一方、電車やバスの乗客は増えた。

 延滞税の税収は年間200億円、渋滞が緩和され、公共交通機関の乗客は増加したから経済活動にプラスの影響をもたらしたようだ。

※ロンドンの渋滞税の税収は年間約200億円のようです。

 垓のダイジェスト映像はここで終わっていた。

 ***

「うまくいったみたいですね」と僕は新居室長に確認する。

「そうね。渋滞は緩和されたみたいだし、税収も増えたみたい。でも……」
「でも、なんですか?」
「税収は年間200億円だから、金額が小さくない?」
「小さくはないですよ。ただ財政赤字が大きすぎるだけです。塵も積もれば山となる、ですよ」
「そうね、先は長いわね。一応、提案してみるかな」

 こうして、僕たちは渋滞税の導入を政府に提案することにした。
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