第2話 PBR改革(その4)

文字数 1,079文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕たちは垓のダイジェスト映像を見ている。
 画面には二人の男性が応接室で面談している様子が映し出されている。

 一方のカジュアルな服装の男性には「上場企業A社の佐藤さん(CFO)」、もう一方のスーツ姿の男性には「外資系銀行M銀行の鈴木さん」と字幕が表示されていた。

 M銀行の鈴木さんは株価を上げたいA社に対して提案を行っている。

「今回、当行から御社にご提案するのはリキャップです。まず、一般的なケースでご説明いたします」

 鈴木さんはそういうと図を示した。

【図表66:リキャップの説明】

 
※上記は簡略化した貸借対照表を表示しています。ここではPBR1倍とします。

「まず、リキャップとはリキャピタライゼーション(負債・資本の再構成)の略語です。この会社の資産は100、負債はゼロ、純資産は100です。この状態で50借入をして自社株買いをします」
「自社株買いですか?」
「そうです。借入をして自社株買いすることで、自己資本比率100%から50%に再構成するのです。それがリキャップです」

 佐藤さんは聞きなれない用語(リキャップ)が飛び出して困惑している。株価対策を提案されているはずが、いつのまにか銀行から借入をする話にすり替わっているような気がしているのだ。
 佐藤さんはCFOではあるものの、A社は今まで銀行借入をしてこなかったから銀行交渉には慣れていない。外資系銀行に対する警戒感もあるのだろう。

「リキャップすると、どういう効果があるんですか?」と尋ねる佐藤さん。

 鈴木さんは佐藤さんが興味を持ったと考えながら説明を続ける。

「まず、自社株買いをしても、自社株買いをしなくても会社のほぼ利益は同じですよね?」
「そうですね。資本構成は会社の業績には関係ありませんから」
「この会社の一株当たり株価が100とします。発行済株式数の50%を自社株買いすると、一株当たり利益(EPS)は2倍に増えます」
「分母が減るから……そうですね」

「すると、株価は2倍の200になりますよね?」
「EPSが2倍になったから、株価は2倍……になりますね」

 佐藤さんはリキャップを利用すると株価が上がる理屈を理解したようだ。

「そうすると、自社株買いをすればするほど株価は上がるわけですか?」と佐藤さんは質問する。

「一般論としてはそうです。でも、限界はあります」
「はあ」
「でも、御社のようにPBRが低い会社は特に効果があります」

 M銀行の鈴木さんはA社の貸借対照表と株価関連情報を示した。

<その5に続く>
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