第2話 日本の人口を増やそう!(その4)
文字数 2,420文字
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。
垓のダイジェスト映像は別の場面に切り替わった。
レポーターは〇〇村の役場前で高齢男性にインタビューしているようだ。
「外国人移住者が増えて村に活気が出てきましたね。暮らしぶりは変わりましたか?」
「そうだなぁ、変わったんじゃないか?」
「前よりも良くなりましたか?」
「どうだろうなー。俺は昔の方が良かったんだけどな」
高齢男性は外国人が増えたことを不満に思っているようだ。
レポーターは高齢男性に理由を尋ねる。
「外国人居住者に何か不満でもあるのでしょうか?」
「そりゃ、あるよ。俺は元々東京に住んでたんだ」
「東京ですか。じゃあ、最近引っ越してきたのですか?」
「10年くらい前かな。定年退職を機に、田舎の静かな環境で暮らしたいと思ってね。〇〇村に引っ越してきたんだ」
どうやら高齢男性は元々〇〇村の住民ではないらしい。
都会から田舎の生活に憧れて引っ越しする人は多い。ただ、田舎での生活に馴染めずに都会に戻る人も多い、とレポーターは聞いていた。
「そうだったのですね。10年前というと……当時、自治体が力を入れていた移住支援策ですか?」
「そうだよ。『空き家が安く借りられるから移住してほしい』と〇〇村が移住者を募集してたんだ」
「それに応募したわけですね」
「そう。趣味の読書を豊かな自然の中で存分にしたいと思ってね。あと、自給自足の生活に憧れていたから農業をしてみたかったんだ」
「〇〇村は自然が豊かですし、夢は叶ったわけですね?」
「外国人移住者が増えるまではな……外国人移住者が増えてからはうるさくて読書もできねーよ!」
今まで静かにレポーターの質問に答えていた高齢男性は声を荒げた。
神経質な高齢男性は外国人移住者に対する怒りを露わにしている。
趣味の読書を邪魔されるのが気に食わないのだ。
高齢男性の怒りはヒートアップしていく。
「とにかく、子供の声がうるさいんだよ! 今も村役場に抗議してきたところだ」
「はぁ……役場の人は何と?」
「担当者が言うには、『公園内に【騒音禁止!】【大声禁止!】と貼っています』だってよ。そんな貼り紙で静かになるわけねーよ!」
「まぁ、活気が戻ったと喜んでいる人もたくさんいらっしゃいますよ……」
「そんなの知らねえーよ。そんなこと言うなら、あんた、公園の隣に住んでみたらいいんじゃないか? あの騒音が毎日、毎日、続くんだぞ!」
僕はこういう貼り紙を公園に出したり、役所に抗議したりする老人をテレビで見たことがある。
レポーターはこれ以上高齢男性と話しても長くなりそうだと判断したようだ。気まずそうにしながら、当たり障りのない言葉でインタビューを打ち切った。
この高齢男性のように外国人移住者を嫌う人もいるだろう。
静かな環境で暮らしたいのは分かるのだが、住民と外国人移住者との関係が悪化しないことを僕は願っている。
**
垓のダイジェスト映像は別の場所に切り替わった。
ゴミ捨て場に人だかりができている。
高齢女性が外国人移住者の持ってきたゴミ袋を開けて、叫んでいる。
「だーかーらー、ちゃんと分別しなさいって言ってるでしょ!」
「紙は燃えるゴミだから、入れても大丈夫だと聞きました」と答える外国人移住者の女性。
「これは紙パックでしょ! 紙パックはリサイクルしないといけないの!」
「リサイクル?」
「中を洗って乾かしてから回収ステーションに出さないといけないのよ!」
高齢女性は「資源ごみは捨てずにリサイクルしろ」と言っている。
高齢女性の言い分は尤もだが、外国人移住者が日本のゴミ処理のルールを完全に理解するのは難しいだろう。
「それにね、この容器は汚れてるでしょ?」
「はあ」
「リサイクルに出すプラスチックは汚れてないものだけ。こんなに汚れているプラスチックは燃えるゴミで出すの!」
「そんなの、分かるわけがないでしょ」
ゴミ出しで揉める高齢女性と外国人移住者。ゴミ捨て場おばさんはここでも健在だ。
垓のダイジェスト映像には、日常の小さな揉め事から外国人移住者と元から住んでいる人たちの間に亀裂が入っていく様子が映し出されていた。
**
また、垓のダイジェスト映像は違う場所を映し出した。
〇〇村の村長選挙が開催されるようだ。候補者は現職村長の日本高齢男性とベトナム人男性だ。
現職村長が村役場の前で演説している。
「〇〇村は日本です。最近は外国人が好き勝手しているようですが、こんな横暴を許してはいけません。みなさん、日本の伝統的な文化を守ろうではありませんか!」
「そうだー」
「賛成!」
一方の候補者のベトナム人男性は、コンビニの前で演説している。
「古い日本の慣習は必要ありません! 外国人差別を撤廃しよう! 僕たちが〇〇村を変えるのです!」
「Cố lên !(コーレン)」
「Cố gắng lên(コー ガン レン)」
選挙開票された。
ベトナム人男性がガッツポーズをしている映像が流れている。現職の村長を破って、ベトナム人男性が村長となったようだ。
それもそのはず、〇〇村の人口は移住者が90%を占めている。数で日本人の現職村長が勝てるはずがなかった。
こうして、〇〇村は外国人移住者に優しい村へとなっていった。
ちなみに、〇〇村は選挙から数年後には『リトル・ホーチミン』と呼ばれることになる。
垓の映像はそこで終わった。
***
「まぁ、そういうこともあるよね」と僕は言った。
「別に悪くないと思うけどなー」と茜。
僕と茜は否定的ではない。新居室長はどうだろう?
僕は「この案、どう思います?」と新居室長に聞いた。
「個人的にはいいと思うんだけど、政府のおじいちゃんが何て言うかなー?」
そういう反応も想定される。
僕たちはこの案を政府に提案することにした。
とはいえ、他の案も考えておいた方が安全なのだろう。
僕は代案を考えることにした。
垓のダイジェスト映像は別の場面に切り替わった。
レポーターは〇〇村の役場前で高齢男性にインタビューしているようだ。
「外国人移住者が増えて村に活気が出てきましたね。暮らしぶりは変わりましたか?」
「そうだなぁ、変わったんじゃないか?」
「前よりも良くなりましたか?」
「どうだろうなー。俺は昔の方が良かったんだけどな」
高齢男性は外国人が増えたことを不満に思っているようだ。
レポーターは高齢男性に理由を尋ねる。
「外国人居住者に何か不満でもあるのでしょうか?」
「そりゃ、あるよ。俺は元々東京に住んでたんだ」
「東京ですか。じゃあ、最近引っ越してきたのですか?」
「10年くらい前かな。定年退職を機に、田舎の静かな環境で暮らしたいと思ってね。〇〇村に引っ越してきたんだ」
どうやら高齢男性は元々〇〇村の住民ではないらしい。
都会から田舎の生活に憧れて引っ越しする人は多い。ただ、田舎での生活に馴染めずに都会に戻る人も多い、とレポーターは聞いていた。
「そうだったのですね。10年前というと……当時、自治体が力を入れていた移住支援策ですか?」
「そうだよ。『空き家が安く借りられるから移住してほしい』と〇〇村が移住者を募集してたんだ」
「それに応募したわけですね」
「そう。趣味の読書を豊かな自然の中で存分にしたいと思ってね。あと、自給自足の生活に憧れていたから農業をしてみたかったんだ」
「〇〇村は自然が豊かですし、夢は叶ったわけですね?」
「外国人移住者が増えるまではな……外国人移住者が増えてからはうるさくて読書もできねーよ!」
今まで静かにレポーターの質問に答えていた高齢男性は声を荒げた。
神経質な高齢男性は外国人移住者に対する怒りを露わにしている。
趣味の読書を邪魔されるのが気に食わないのだ。
高齢男性の怒りはヒートアップしていく。
「とにかく、子供の声がうるさいんだよ! 今も村役場に抗議してきたところだ」
「はぁ……役場の人は何と?」
「担当者が言うには、『公園内に【騒音禁止!】【大声禁止!】と貼っています』だってよ。そんな貼り紙で静かになるわけねーよ!」
「まぁ、活気が戻ったと喜んでいる人もたくさんいらっしゃいますよ……」
「そんなの知らねえーよ。そんなこと言うなら、あんた、公園の隣に住んでみたらいいんじゃないか? あの騒音が毎日、毎日、続くんだぞ!」
僕はこういう貼り紙を公園に出したり、役所に抗議したりする老人をテレビで見たことがある。
レポーターはこれ以上高齢男性と話しても長くなりそうだと判断したようだ。気まずそうにしながら、当たり障りのない言葉でインタビューを打ち切った。
この高齢男性のように外国人移住者を嫌う人もいるだろう。
静かな環境で暮らしたいのは分かるのだが、住民と外国人移住者との関係が悪化しないことを僕は願っている。
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垓のダイジェスト映像は別の場所に切り替わった。
ゴミ捨て場に人だかりができている。
高齢女性が外国人移住者の持ってきたゴミ袋を開けて、叫んでいる。
「だーかーらー、ちゃんと分別しなさいって言ってるでしょ!」
「紙は燃えるゴミだから、入れても大丈夫だと聞きました」と答える外国人移住者の女性。
「これは紙パックでしょ! 紙パックはリサイクルしないといけないの!」
「リサイクル?」
「中を洗って乾かしてから回収ステーションに出さないといけないのよ!」
高齢女性は「資源ごみは捨てずにリサイクルしろ」と言っている。
高齢女性の言い分は尤もだが、外国人移住者が日本のゴミ処理のルールを完全に理解するのは難しいだろう。
「それにね、この容器は汚れてるでしょ?」
「はあ」
「リサイクルに出すプラスチックは汚れてないものだけ。こんなに汚れているプラスチックは燃えるゴミで出すの!」
「そんなの、分かるわけがないでしょ」
ゴミ出しで揉める高齢女性と外国人移住者。ゴミ捨て場おばさんはここでも健在だ。
垓のダイジェスト映像には、日常の小さな揉め事から外国人移住者と元から住んでいる人たちの間に亀裂が入っていく様子が映し出されていた。
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また、垓のダイジェスト映像は違う場所を映し出した。
〇〇村の村長選挙が開催されるようだ。候補者は現職村長の日本高齢男性とベトナム人男性だ。
現職村長が村役場の前で演説している。
「〇〇村は日本です。最近は外国人が好き勝手しているようですが、こんな横暴を許してはいけません。みなさん、日本の伝統的な文化を守ろうではありませんか!」
「そうだー」
「賛成!」
一方の候補者のベトナム人男性は、コンビニの前で演説している。
「古い日本の慣習は必要ありません! 外国人差別を撤廃しよう! 僕たちが〇〇村を変えるのです!」
「Cố lên !(コーレン)」
「Cố gắng lên(コー ガン レン)」
選挙開票された。
ベトナム人男性がガッツポーズをしている映像が流れている。現職の村長を破って、ベトナム人男性が村長となったようだ。
それもそのはず、〇〇村の人口は移住者が90%を占めている。数で日本人の現職村長が勝てるはずがなかった。
こうして、〇〇村は外国人移住者に優しい村へとなっていった。
ちなみに、〇〇村は選挙から数年後には『リトル・ホーチミン』と呼ばれることになる。
垓の映像はそこで終わった。
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「まぁ、そういうこともあるよね」と僕は言った。
「別に悪くないと思うけどなー」と茜。
僕と茜は否定的ではない。新居室長はどうだろう?
僕は「この案、どう思います?」と新居室長に聞いた。
「個人的にはいいと思うんだけど、政府のおじいちゃんが何て言うかなー?」
そういう反応も想定される。
僕たちはこの案を政府に提案することにした。
とはいえ、他の案も考えておいた方が安全なのだろう。
僕は代案を考えることにした。