第2話 ゼロゼロ融資は何が問題なのか(その2)

文字数 1,322文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 ゼロゼロ融資のような政府がカネをばら撒く制度は、モラル・ハザードが発生しやすい。どういうことかを念のために説明しておく。
 まず、ゼロゼロ融資を申し込む対象を図示したのが図表31だ。


【図表31:ゼロゼロ融資の申し込み】



 ほぼ破綻状態の会社(ゾンビ企業)は、銀行やノンバンクは融資しない。融資してくれる先がどこにもないのだが、ゼロゼロ融資であれば借りることができる。
 新型コロナウイルス禍で業績が悪化したことを装って、ゼロゼロ融資を申し込めばいい。具体的には過去の決算書類を粉飾して金融機関に提出し、コロナ禍で業績が悪化したと説明してゼロゼロ融資を借りる。
 ゾンビ企業はもともと借入金を返済できる返済能力はないから融資は貸し倒れる。つまり、ゾンビ企業向けのゼロゼロ融資はほぼ100%貸し倒れる。税金の無駄遣いだ。

 次に、不良債権化しそうな会社(業績の悪い会社)は銀行にとってお荷物だ。債務者区分が下がれば貸倒引当金を積み増ししないといけないし、不良債権として開示しないといけなくなる。
 そういう会社に対して、銀行はゼロゼロ融資の申し込みを会社に提案する。ゼロゼロ融資で調達した資金で銀行の通常貸付(プロパー融資)を返済させるためだ。業績の悪い会社の銀行借入はゼロゼロ融資に振り替わるから、銀行は不良債権の処理ができる。
 この対象はもともと業績が悪くて不良債権化しそうな会社だ。不良債権予備軍だからコロナ禍で打撃を受ければ、貸し倒れる可能性は高い。
 この場合、ゼロゼロ融資はかなりの確率で不良債権化する。これも、税金の無駄遣いだ。

 コロナ禍の前から、業績の良い会社は銀行借入をしていない会社(無借金会社)が多かった。過去のバブル崩壊やリーマン・ショックで懲りた日本企業は、銀行借入に頼らずに手許資金を厚くしていったのが理由だ。優良企業のかなりの割合が無借金会社また実質無借金会社(ネットデット(借入金-現預金)がマイナスの会社)だ。
 無借金企業は潤沢に現預金を保有しているから、コロナ禍で一時的に業績が悪化しても手元資金で賄える。借入は必要ない。一方、業績の良い会社のうち、コロナ禍で業績が悪化し、さらに手元資金が潤沢になかった会社はゼロゼロ融資を申し込んだ。
 つまり、業績の良い会社がゼロゼロ融資を申し込む可能性はそれほど高くない。
 一時的に業績が悪化した業績の良い会社だから、ゼロゼロ融資は返済される。

 ちなみに、ゼロゼロ融資は中小企業か個人事業主しか申し込みができない。つまり、大企業は対象にならないから、ゼロゼロ融資を借りているのは小規模の信用力の高くない企業がほとんどだ。

 ゼロゼロ融資の対象を企業規模・業績・手許資金で分けると図表31-2のようになる。

【図表31-2:ゼロゼロ融資の対象】


※回収可能性は筆者が独断で記載しています。

 企業規模が小さく、業績が悪く、手許資金が不足している会社がゼロゼロ融資の対象となっていることが分かるだろう。
 そして、そのかなりの割合が貸倒れによって、国民負担になっていく。それがゼロゼロ融資の問題の本質なのだ。
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