第3話 問題を先送りしよう!(その2)

文字数 1,450文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕たちは垓が生成したシミュレーションのダイジェスト映像を見ている。

 政府はゼロゼロ融資の返済開始日を2年間繰延べる法案を国会で成立させ、政府系金融機関と民間銀行の既存ゼロゼロ融資の借換えが開始した。
 ゼロゼロ融資の返済によって資金繰りが悪化していた企業は、返済の先延ばしによって延命した。

 ゼロゼロ融資の返済が当初予定通りに行われていれば、資金繰りに困窮した会社の倒産が増加したはずだ。倒産件数が増えれば税金の無駄遣いを指摘されて、コロナ禍の政府の対応が批判されていたに違いない。内閣の支持率は低下するし、与党の選挙戦にも悪影響を及ぼす。
 ゼロゼロ融資の返済繰延べは、問題を先送りしたい現政権からすれば好ましい結果となった。

 垓のダイジェスト映像は中小企業の社長へのインタビューに切り替わった。
 レポーターが作業着の社長に質問している。

「こちらの工場の社長の鈴木さんにお話を伺いたいと思います。鈴木さん、本日はよろしくお願いします」
「お役に立てるか分かりませんけど……よろしくお願いします」

「御社はゼロゼロ融資を借りていると伺いました。ゼロゼロ融資を借りたきっかけは何ですか?」
「ああ、ゼロゼロ融資ね。コロナ禍で主力製品の売れ行きが80%落ちたんだ。会社の業績が落ち込んでも従業員に給与を払わないわけにいかない。だから、従業員の給与を払うためにゼロゼロ融資を借りたんだ」

「あの時は業績が悪化する会社が多かったですからね。ところで、ゼロゼロ融資を返済できる見込みはあったんですか?」
「そんなことしらねーよ。正直、何も考えてなかったね。無利子・無保証でいいっていうから、とりあえず借りとこうと思ったね。そうだろ?」
「そういう会社、多いですね」
「そうだと思うよ」

 レポーターは話題を変えた。

「ところで、ゼロゼロ融資の返済が2年間繰延べられることになりました。鈴木さんの会社では影響はありましたか?」
「うーん、有るといえば有るし……無いといえば無いな」
「影響が有りそうで無さそう……強いて言えばどっちですか?」
「いやー説明が難しいなー。ゼロゼロ融資は2年間返済しなくて良くなっただろ。それは良かったと思うんだ」
「そうですね。資金繰りに余裕ができますからね。それはいい影響ですね」

 鈴木さんは少し考えてからレポーターに言った。

「だけど、悪い影響もあった」
「どういう影響ですか?」
「うちの会社は銀行から運転資金の借入をしているんだけど……銀行が運転資金の融資枠を下げ始めた」
「融資枠ですか?」
「そうだよ。1,000万円も縮小するって言ってきたんだ」
「ちょっと不勉強で申し訳ないのですが……融資枠が1,000万円縮小されたら、鈴木さんの会社にどのように影響するんですか?」

 レポーターに言葉で説明しても分かりそうにないと考えたのだろう。鈴木さん紙の裏に図(図表33)を書いた。

【図表33:借入金の内訳】


 


「まずな、うちの会社の借入金なんだけど、コロナ前は6,000万円の借入があったんだ。内訳は設備資金3,000万円と運転資金3,000万円だ」
「一番左のところですね」
「そう。それで、コロナで売上が下がった時に資金繰りが苦しくなって、従業員の給与を払うために500万円のゼロゼロ融資を申し込もうとしたんだ」

 レポーターは図に書いてあるゼロゼロ融資の金額と鈴木さんの言った金額が違っていることに気付いた。

<その3に続く>
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