第2話 日本の人口を増やそう!(その2)

文字数 2,491文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕は、日本が人口を増やすためにはカナダと同じ移民戦略が有効だと考えている。ただ、移民を受け入れたくない日本人は一定数いるだろう。そう考えた僕は、新居室長と茜の意見を聞くことにした。

「まず、日本の競争力を判断する指標がないと議論ができませんからGDPという前提でいいですか?」と僕は新居室長に尋ねる。

「いいんじゃない」と新居室長は言う。

「GDPを増やす場合、一人当たりの生産性を高めるか、人口を増加させるかですよね?」
「そうね。人口を増やすのは難しいかもしれないけど」

「人口を増やすのは難しいでしょうけど、GDPを増やすためにはチャレンジしてもいいと思うんです」
「まぁ、そうだけど。どうやって人口を増やすの?」

「僕が考える日本の人口を増やすための戦略は移民です。どう思いますか?」
「移民?」
「ええ、移民です。日本の出生率は1.3人です。現実的に考えて、どんな少子化対策の政策を採ったとしても、人口が自然増になる出生率2人以上にすることは難しいと思うんです」
「まぁ、先進国の女性はパートナーに頼らなくても一人で生活できるからね」
「そうです。独身の方が気楽だと考える女性は多いと思います」
「そうそう。未婚の友人は多いね。婚期は遅いし」
「そう思います」
「婚期が遅い……ひょっとして、私のこと?」

※2020年国勢調査における生涯未婚率(50歳時未婚率)は、男性28.3%、女性17.8%です。都道府県別では、男性のトップは東京都の32.1%のようです。

 うるんだ目で僕を見つめる新居室長。僕には何と返答するのが正解か分からない。

「新居室長はまだ若いですよ。大丈夫です!」
「ねえ、志賀くん」
「はいっ?」

 新居室長は一歩僕に近づいて言った。

「それって、ひょっとしてプロポーズ?」
「いえ、そういうわけでは……」

 思わずドキドキしてしまう僕。
 最近の僕は、新居室長に見つめられると鼓動が早くなるのを感じる。自分の気持ちをうまく整理できない僕は、新居室長を直視できない。

 飽きてきた茜が「移民は?」と言った。ナイスアシストだ……と思う。

「日本独自で出生率の上昇が見込めないのだから、外国から移民を呼び込んで増やすしかない。理にかなっているよね?」と僕は茜に聞いた。

「まぁ、そうかもなー」
「今後50年間で日本の人口は約4,000万人が減る予想がある。これを年平均にすると1年間に80万人だ。だから、年間80万人以上の移民を受け入れれば日本の人口は増えていくよね?」
「そーだな。2023年度の出生数が約73万人。だから、生まれてくる子供と同じくらいの移民を受け入れるわけだな」
「そういうこと」
「でもさ、80万人はさすがに多くない?」
「そうかな?」

 茜にツッコまれ、少し不安になる僕。
 年間80万人の移民は多いのだろうか? 僕には80万人のイメージが沸かない。

「だって、80万人っていうと、堺市(大阪府)、浜松市(静岡県)、新潟市(新潟県)の人口とほぼ同じだ。それだけの人が住むところを確保するのも大変そうだと思うけど」
「空き家がいっぱいあるんだから、移民に使ってもらえばいいんじゃないかな」

※国土交通省のデータでは、2018年度の空き家数は846万件です。2人で空き家一件を使用したら20年は住む場所は大丈夫そうです。

「まぁ、いいけどさ。いきなり80万人も来てくれるかな?」と茜がボソッと言った。

 確かに、いきなり年間80万人も移民を増やすのは難しいかもしれない。日本を訪れた外国人に日本の良さを知ってもらうことも重要だ。

「確かに……移民してもらうためには、日本の魅力を知ってもらうことが重要だな」
「そうだと思う。お試し居住する機会があれば、移民してくれる外国人も増えそうな気がする」

「何かいい案ある?」と僕は茜に尋ねる。

「そーだな。例えば、デジタルノマドビザ、医療滞在ビザとか日本に長期滞在できるビザを拡充していくのはどう?」
「おぉ、いいね。長期滞在できるから日本の魅力を知ってもらえそうだ」

※デジタルノマドビザとはデジタルノマド(インターネットを利用してどこからでも仕事ができる人)に向けて発行されるビザです。外国人はこのビザを使って現地で労働するわけではなく、収入は本国のリモートワークで賄います。観光しながらリモートワークをするワーケーションの一環です。デジタルノマドビザをワーケーションビザという場合もあります。
隣の韓国では、2024年1月1日からデジタルノマドビザ(査証)制度を導入しました。韓国の場合は、本国とリモートワークをする外国人に最長2年間(1年間の滞在が可能となり、更に1年延長可能)韓国に滞在する許可を与えるものです。ただし、申請者は年収が8496万ウォン(約940万円)以上必要なので、富裕層の観光用ビザという側面が強いです。

※医療滞在ビザとは、日本で医療行為(人間ドック、健康診断、検診、歯科治療、療養など)を受けることを目的として日本に滞在する外国人に対して発給されるビザです。滞在期間は外国人患者等の病態等を踏まえ決定され、最大で1年までです。
メディカルツーリズムの一環で発給されるビザといえるでしょう。

「そうすると、移民の要件緩和と長期滞在ビザの拡充だね」
「まぁな。それにしても、住民が移民と揉めそうだなー」
「それも、シミュレーションしてみたら分かるよ」

 茜は移民政策に否定的な意見を持っているようだ。ただ、移民は人口戦略としては重要だから僕は前向きに検討したいと思っている。

 僕が「垓でシミュレーションしてみてもいいですか?」と尋ねたら、「いいわよ」と新居室長は言った。

 新居室長の許可が出たので僕はスーパーコンピューター垓に、移民を年間80万人受け入れる政策をインプットした。

 垓のシミュレーションは10分で終了した。
 悪くはなさそうだが、良くもないシミュレーション時間だ。

 僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。

<その3に続く>
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み