第3話 所得税と法人税を増税しよう!(その2)

文字数 1,182文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

<その1からの続き>

「じゃあ、所得税率と法人税率を50%ずつ引き上げる案をシミュレーションしてみますよ?」僕は新居室長に提案した。

「そうだね」と新居室長。
「ダメ元でやってみるよ」と僕は茜に言った。

 僕はスーパーコンピューター垓に、所得税率と法人税率を50%ずつ引き上げる法案成立をインプットした。

 垓のシミュレーションは5分で終了した。
 シミュレーションの時間はさっきよりも短いから、ダメではないかもしれない。

「うーん、どうでしょうね?」という僕に、新居室長は渋い顔をしている。

 僕たちは垓の作成したシミュレーションの結果を確認することにした。

***

 まず、中小法人の法人税等の実効税率を34%として計算すると、実効税率は51%(=34%×1.5)となる。

 次に、現在の所得税率は図表17-1の通りだ。日本の所得税率は累進課税であるから、所得金額に応じて5%~45%の幅がある。所得税率を50%引き上げると、7.5%~67.5%となる。
 高所得者が負担する最高税率67.5%は世界中どこを探してもない。

【図表17-2:所得税の税率および控除額】


※上記に加えて復興特別所得税(基準所得税額の2.1パーセント)も課税される。


 僕たちは垓が作成したシミュレーションのダイジェスト映像を見ている。

 所得税率と法人税率の50%引き上げ法案が可決されそうになると、外資系企業は日本の拠点を閉鎖していった。法人税率の高い日本において、その拠点が恒久的施設(Permanent Establishment: PE)と見做されると困るからだ。
 続いて大企業は一斉に本社を低税率国に移転し始めた。今までは日本で創業した経緯から本社を日本に置いていたが、さすがに実効税率が51%となると日本に拠点を置く必要がないと判断したようだ。

 富裕層の行動は大きく2つに別れた。

 日本に居住する必要がない富裕層は海外に移住した。こうして日本から半数近くの富裕層がいなくなった。

 一方、日本に居住する必要がある富裕層は会社から給与を貰うことを止めた。会社はその代わりに税制適格ストック・オプションを発行するようになった。税制適格ストック・オプションの売却益は譲渡所得であるから、譲渡益の20%を納税すれば足りる。

 企業と富裕層の行動は早かった。所得税率と法人税率の50%引き上げ法案が可決されて1年後には高額納税の企業と個人は日本からいなくなった。
 そして、日本に残留した会社は赤字法人、低所得者だけになった。

 垓のダイジェスト版はここで終わっていた。

***

「失敗したね…」という新居室長に「まあ、そうなりますね」と僕は言った。

 負け惜しみではない。これだけ増税すれば、当然、そうなる。

 さて、次を考えよう。
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