第4話 志賀の提案(その1)

文字数 1,837文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕には「物流・運送業界の2024年問題」の解決策として予め用意してきた案があった。
 でも、茜の案が良さそうだったので修正したものを提案することにした。

「こういう案はどうでしょう?」

 発言に対して、新居室長は「いい案がある?」と僕に尋ねる。

 僕は提案の前提事項を先に説明することにした。

「僕は茜の案はいいと思いました」
「そうだね。私もいいと思った」
「でも、解決策として外国人ドライバーを利用したのが失敗だったと思うんです」
「どういうこと?」
「外国人ドライバーは長距離輸送を解消するための労働力として有効です。でも、日本のドライバーの中ではマイノリティ(少数派)ですから、業界では大した発言力はありません」
「そうね」
「日本人ドライバーの数は外国人ドライバーよりも多いです。だから、叩きやすかったんです」
「弱い者いじめ、ってこと?」
「そういうことです。同じ日本人として恥ずかしいことです……」
「確かに……こういう時にダイバーシティ(多様性)は通用しないね……」

 茜も頷いている。自分の案のシミュレーションが上手く行かなかった理由を考えていたのだろう。

 僕は茜の案の修正案を提示することにした。

「僕の案は、基本的には茜の提案と同じです。ただ、一部だけ修正します」
「外国人ドライバーを変えるってこと?」
「そうです。外国人ドライバーではなく、自動運転システムを使います」
「というと、レベル4とかレベル5とかかな?」
「ええ、レベル4の自動運転を想定しています」

 自動運転の利用は政府でも検討されていることだ。
 念のために説明しておくと、図表2-1のように自動車の自動運転はレベル1~5に分かれている。説明の都合上レベル0を入れて比較するが、レベル0は自動運転ではない。

【図表2-1:自動運転の定義】


 まず、レベル1~2は人が車を運転する。人の運転を車が補助するのがレベル1~2だと解釈してもらえばいいだろう。

 一方、レベル3~5では車が自動的に動くから人は運転しない。つまり、自動運転はレベル3~5を指す。
 レベル3まではもしもの時(システムに不具合が発生した場合など)のために人の同乗が必要だが、レベル4~5は人の同乗は必要ない。完全自動運転だ。

 レベル4と5の違いは自動運転で走る場所に制限があるかないかだ。自動運転で走る場所に制限があるのがレベル4で、レベル5はどこを走っても構わない。

 僕は説明を続ける。

「垓のシミュレーションでは、バッシングの対象が立場の弱い外国人労働者だったからマズかったと思うんです。外国人ドライバーと同じように高速道路をレベル4の自動運転にします」


【図表2-2:長距離輸送の内容】


「日本人ドライバーも、車相手に怒れないか……」
「一般道を自動運転(レベル5)するのは時間が掛かると思います。けど、走行するのを高速道路に限定してしまえば(レベル4)、ドライバーは必要ありません」
「なるほどねー。いいんじゃない」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、この案に補正して垓でシミュレーションしてみようか」

 新居室長の許可が出たので、僕と茜は垓のインプット情報を修正した。

「これで上手くいくかな?」と茜は言ったが、僕には分からない。
「どうだろうね。とにかく試してみようよ」と僕は答えた。

***

 垓のシミュレーションは、先ほどと同じく15分ほどで終了した。

 僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認する。

 まず、高速道路での完全自動運転によって、2024年問題における長距離輸送の問題は解決した。ここまでは外国人ドライバーを使った茜の案と同じ結果だ。

「これは、いけるんじゃない?」と新居室長も興味津々だ。僕も茜も今回のシミュレーションに期待している。

 でも、問題はここから……

 垓のシミュレーションによれば、完全自動運転は大手自動車メーカーの全面的な協力を得て開始した。
 さらに、政策的なバックアップも加わる。運送会社が完全自動運転車へ買い替える際には、国土交通省が補助金を出す仕組みになっており、完全自動運転のトラックが飛ぶように売れた。
 運送会社は完全自動運転車を利用することによって人件費が削減できて利益が増えた。大手自動車メーカーは完全自動運転車両の販売で過去最高益を更新した。

 僕は順調に進むと思っていた。が、また問題が起きた。

<その2に続く>

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