第3話 公営カジノを開業しよう(その1)

文字数 1,964文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕は『不健康税』のコンセプトは良いと思っている。でも、直前までウォーキングしない高齢者が続出することが、スーパーコンピューター垓のシミュレーションで明らかになった。
 計画的に運動するように伝えたとしても従う高齢者は少ないと思う。だから、高齢者の命の危険を考慮して別の政策提案を考えるべきだ。

 僕が他の案を考えていたら、茜が「増税したら支持率下がらない?」と言った。

 新しい税収を作ることは財政赤字を補填するために有効だ。でも、「増税メガネ」と言われているのを気にしているようだし、内閣支持率に悪影響を与えることは間違いない。
 僕には日本政府が税収以外で収入を増やすイメージを持てない。茜は何か案があるのだろうか?

「そうだけど……増税以外にどうやって政府の収入を増やすの?」
「日本政府が事業をすればいいじゃない。あっ、メイド喫茶以外だけどね」

 茜は日本政府が事業をすればいいと考えている。言われてみるとその通りだ。
 日本政府が自ら稼ぐことができれば、財政赤字を解消することもできるかもしれない。

 ――日本政府ができる事業か……

 僕は少し考えてみることにした。地方自治体が運営している事業でまず浮かんだのは競馬、競艇、競輪などのギャンブルだ。

「ギャンブルかな?」と僕は茜に尋ねる。

「いいねー! それこそ政府が運営する事業の代表格だね」
「オンラインカジノがすごい儲かってるらしいけど、公営ギャンブルも相当儲かってるよね」
「だと思うよ。競馬が一番儲かってそうだね」
「どれくらい儲かってるのかな?」

 僕はJRAのホームページを調べていると、国庫納付金に関するページを発見した。

 競馬の場合、馬券のうち約75%は客への払戻金に充てられ、15%がJRAの運営に充てられ、10%が国庫に納付される(第1国庫納付金)。さらにJRAに発生した利益の50%が国庫に納付される(第2国庫納付金)。
 JRAの国庫納付金の1954年~2022年までの推移を示したのが図表38-2だ。

【図表38-2:JRAの国庫納付金の推移】

 

出所:JRA

 国庫納付金が最も多かったのは1997年の4,749億円。2000年代に入ってから国庫納付金の額は下がったが、2010年代に回復して2022年度は3,692億円だ。

 茜はグラフを見ながら「3,500億円も儲かってる。やっぱり、すげーな!」と叫んでいる。

 やはりギャンブルは儲かる。大阪でIR(Integrated Resort:統合型リゾート)の開業が2030年に予定されているが、ホテルやホールなどの収入と比較にならないくらいカジノの収入は大きい。
 カジノは日本の財政赤字を縮小するための有効な手段のはずだが、全国でIRに名乗りを挙げたものの、住民の反対などで撤回する自治体が出ている。治安の悪化、ギャンブル依存症が深刻化するなど、根拠のない理由を列挙して反対する団体があるからだ。

 僕はIR賛成派なのだが、他の2人はどうだろうか? 聞いてみることにした。

「ちなみに、僕はIR賛成派ですけど、新居室長と茜はどうですか?」

「私は税収が増えるからいいと思うよ」と新居室長。
「私も賛成。公営ギャンブルはあるんだし、民間ではパチンコもあるからね」

「パチンコはギャンブルではないんだけど、実質的には同じだね」

※パチンコは換金システムに「三店方式」という方法を使っているため、日本では商取引に該当し、ギャンブルには該当しません。
三店方式とはパチンコ店が買取り専用の特殊な景品(「特殊景品」や「キーパー」と呼ばれます)を客に払出し、それを「古物商」と称する専門買取り業者が顧客から買い受け、更に第三者となる景品流通業者を介してそれがまたパチンコ店に戻るというパチンコ業界特有の景品流通方式のことです。

 二人ともIRには賛成のようだ。僕は新居室長に提案する。

「財政赤字を補填するために、カジノ事業を日本政府で本格的にしてみませんか?」
「いいと思うけど、場所はどこにするの?」
「観光客が多いところだから、まずは首都圏……空港内はどうでしょう?」
「空港ね……まぁ、シミュレーションしてみようか」と新居室長は承諾した。

 僕はスーパーコンピューター垓に、羽田空港と成田国際空港に公営カジノを開業する法案可決をインプットした。IRにするとホールやホテルを建設するのに時間が掛かるが、カジノを開業するだけであれば、空港内の空きスペースで対応できる。

 垓のシミュレーションは20分で終了した。
 それなりも時間が掛かった。結果は悪くはないような気がする。

 僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。

<その2に続く>
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