第1話 新しい税金を考えよう!(その1)

文字数 2,301文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 僕の名前は志賀 隆太郎(しが りゅうたろう)。28歳独身だ。日本の国家戦略特別室で課長補佐をしている。僕の仕事は国で発生した問題を解決すること。
 国家戦略特別室のメンバーは上司の新居(にい)幸子室長と同僚の茜(あかね)幸子、そして僕を合わせて3人。今日も厄介事が国家戦略特別室にやってくる。

 僕が国家戦略特別室に入ろうとしたら、中から声が聞こえる。

「メイドって……歳考えろよ!」茜の声だ。

「なんで茜はメイドの恰好をしていいのに、私はしちゃダメなの?……意味が分からない」こっちは新居室長だろう。

 僕は新居室長のメイド姿が少し頭をよぎった。いやいや、そういうのはやめよう……

「そういう意味じゃなくてさー。今更、メイド喫茶なんてやめとけってこと!」
「別にいいじゃない。メイド喫茶も立派なビジネスだよ」
「そうかもしれないけど……」
「いろんなアイデアがあった方がいいでしょ。メイド喫茶を外す必要はないと思うよ」

 どうやらメイド喫茶をするかどうかで揉めているようだ。誰が、どこで、何のためにするだろう?

 深呼吸した後、僕はドアを開けた。

「おはようございます!」
「あー、志賀くん。いいところに来た」
「どうしたんですか?」

 メイド喫茶の話だろうと思いながらも、僕は新居室長に質問した。

「新規案件なんだけど、『財政赤字を解消するために新しい収入源がほしい』って言ってきたの」と新居室長が言った。

 新しい収入源か……なかなか漠然とした依頼だ。
 しかし、それがなぜメイド喫茶に繋がるのだろうか?

「メイド喫茶って聞こえてきましたけど?」
「ああ、日本政府の新規事業としてどうかな?と思って」

 日本政府の新規事業にメイド喫茶……ないな。僕も茜の意見に同意する。

「最近はコンプラが厳しいから、メイド喫茶は批判が出ると思いますよ。他の案にしましょうよ」
「例えば?」
「事業もいいですけど、まずは税金として収入を増やしていくのがいいと思うんです。例えば、世界には変わった税金がありますよね。日本で試すのはどうですか?」
「変わった税金ねー」

 僕は世界で導入されている税金を思い出してみる。

「例えば、イギリスやシンガポールには『渋滞税』がありますよね」
「あー、あるね」

※中心部などの交通量が多い場所に車で乗り入れる場合に一定額を課金する制度のことです。あらかじめ有料エリアが決められており、その道を走ると一日ごとに税金を支払う必要があります。

「東京や大阪の都市部は、地下鉄・バス・タクシーがあるから、わざわざ自家用車を乗り入れる必要がないはずです。CO2削減、渋滞緩和にも役立ちますから、環境対策にもいいと思うんです」
「たしかに、都心では自家用車で移動する必要ないね。私は車乗らないからこれは賛成!」

 新居室長は自分が運転しないだけかもしれないが、渋滞税には肯定的だ。
 僕は他の変わった税金を思い出した。

「一時期流行った『メタボ税』はどうですか?」
「あったねー。でもさ、国によってメタボ税の対象は違うよね」
「そうですね。フィリピンは『砂糖税』、ハンガリーは『ポテトチップス税』、中国では『月餅税』とかですね」

※フィリピンの『砂糖税』は糖尿病予防、ハンガリーは肥満予防、中国の『月餅税』は贈答品に対する税金という意味合いが強いです。

「日本の場合は何に税金を掛けるかが難しいわね。何がいいのかな?」
「日本の糖尿病患者はフィリピンほど多くはないから、砂糖税はやり過ぎですね」

「そうよね。日本では月餅はないから、贈答品に対する課税という意味では、正月の餅、大みそかの蕎麦、クリスマスのケーキとかかな?」
「そうなりますね。ただ、餅と蕎麦に課税すると日本の正月文化が消滅するかもしれません」
「確かに。お正月に餅と蕎麦を食べなくなって終わりになりそう……」

 糖尿病予防、贈答税は難しそうだから、日本で実施する場合はハンガリーのような純粋な肥満予防ということになる。

「そうすると、ハンガリーと同じようにスナック菓子、ケーキ、清涼飲料水、栄養ドリンク等の塩分や糖度の高い商品ですかね」
「生活習慣病の予防にはなるとはいえ、範囲が広いよね。業界団体が五月蠅そうだなー」
「そうですねー。意見陳述がすごいでしょうね」
「それに、日本は欧米に比べると肥満の人が少ないですから、肥満税を導入しても健康改善に効果は大きくないかもしれません」

 肥満税も難しそうだと悟った新居室長は「日本の問題といえば何?」と僕に質問した。

「そうですねー。少子化ですかね」
「少子化ね……ねえ、志賀くん」
「なんですか?」
「私と少子化対策について考えない?」

 気まずい僕は話を強引に仕事の話に持っていく。

「そういえば、『独身税』って話題にのぼりましたね」

※独身税は単身税とも言われ、少子化対策のために独身者に税金を課すものです。人権侵害に繋がるとして問題があります。

「あったわね。非難が殺到して成立する国はないんじゃないかな。民主主義の根底に関わることだしね」
「そうですよね。結婚していない人はダメ人間、みたいな差別はできませんね。共産圏なら導入できますかね?」
「いやー、難しいんじゃないかな。中国は国内経済がボロボロだから、これ以上国民の反感を買ったらヤバいことになるよ。ロシアも難しそうだし……独身税を導入できるのはアジア圏だと北朝鮮くらいかな」

 独身税が少子化に役立つとしても、日本の実態に即したものを採用すべきだ。

「そうすると、EUで施行されたデジタル税とかが現実的なのかな……」

<その2に続く>
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