第5話 日銀に買ってもらおう!(その2)

文字数 1,918文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 垓のダイジェスト映像は日経平均株価の動きを示している。

 日銀がETF購入を再開したことから日経平均株価は上昇を続けている。
 やはり、日銀のETF購入のインパクトは大きかった。国内外の機関投資家はもちろん、個人も日銀の買いを聞きつけて日本の株式を買い漁った。
 この結果、日経平均株価は4万5,000円を超えた。

 このまま日経平均株価は上がり続ける、と僕は思った。

 垓のダイジェスト映像は国会中継に切り替わった。
 衆議院の臨時国会において、野党議員が質問している。質問の相手は日銀総裁のようだ。

「消費者物価指数は3%上昇しました。さらに企業の業績が改善したことから4%の賃上げが実施されました。すでに日本の景気は回復していると思いますが、いかがでしょうか?」

 日銀総裁がマイクの前に立った。

「たしかに、景気回復の兆しは見えつつあると思います。しかし、世界各地で発生している紛争の影響が今後我が国の経済に悪影響を及ぼさないとは限りません。この景気回復が安定的な状態にあるかと聞かれれば、不安定だと申さざるを得ないでしょう」

 再び野党議員が質問する。

「あんた、去年もそんなこと言ってたよね? 景気が悪化するかもしれないから利上げはまだしないって。でも、悪化しなかった」
「仰る通りです。そういう意味では、私共の判断は変わっていません。安定的な景気回復が観測できたら政策金利の引き上げを検討する予定です」

 日銀は株価に影響が出るのを懸念しているのか、まだ利上げをしていないらしい。

 野党議員は手を挙げて後ろを見渡した。「やれやれだぜ」のようなポーズをしている。
 野党議員は手許の資料を見てから追加質問に移った。

「まぁ、いいでしょう。利上げをするかどうかは今後検討して下さい。それとは別に、日銀の資産購入額が増えているようです。具体的には国債とETF、特にETFの残高がもの凄い勢いで増えています。金融緩和政策を止める・止めないの話をしている段階で、さらに資産購入するのはなぜでしょうか?」

「まだ、国内景気が完全に回復していないとの判断からです」
 日銀総裁は手許資料を確認してから質問に答えた。

「日経平均株価は4万5,000円を突破し、さらに上昇するとの予測が出ています。株式市場では『日銀相場』と言われているようですね。日銀は株高を演出したいのでしょうか?」
「いえ、そういう訳ではありません」
「日経平均株価は史上最高値を更新しています。常識的に考えてこの相場で株を買う必要はないと思いますけど、これ以上ETFを買う必要はあるんですか?」
「それは……市場環境を確認しながらですね……検討していこうかと……」

 日銀総裁は返答に窮している。そんな様子を観察しながら野党議員は次の質問を続ける。

「ちなみに、市場関係者は『日銀はターゲット株価を目指して買っている』と言われています。ターゲットにしている株価水準があるのでしょうか?」
「……そういうわけでは」

 日銀総裁はお茶を濁した。

「日経平均株価が4万7,000円を超えたら、買うのを止めますか?」
「いえ……やめない……かな?」
「じゃあ、日経平均株価が5万円を超えたら、買うのを止めますか?」
「……やめる……かな?」

 野党議員はニヤニヤしている。

「5万円ですね。日銀のやっていることは株価操縦です。それは日銀の仕事なのでしょうか?」
「いえ」
「それなら誰かの指示ですか?」
「……」

 玉虫色の回答が続いたものの、日銀総裁はETF購入を止めると明言しなかった。

 市場関係者は『日銀は日経平均株価が5万円になるまでETFを買い続ける』と理解し、日本の株式は買われ続けた。
 その後、日経平均株価は5万円を突破した。

 ***

「やっぱり、日銀はすげーなー」と茜は呟く。

 日銀のETF購入は株式市場に大きなインパクトを与えた。
 日経平均株価は政府が目標としていた5万円を超えたから政策としては成功だ。

 ちなみに、日銀がETFを購入したことによって、日銀が保有する東証プライム上場企業の保有比率は20%を超えた。日本の上場企業は大株主である日銀の機嫌を窺う動きをしているらしい。

 それにしても、日銀は金融緩和政策を終了する際にはETFを売却しなければならない。

 ――エグジットはどうするんだろうな?

 ETFの売却を開始すると日経平均株価は急激に下落するだろう。
 僕はそう思ったが、深くは考えないことにした。

 それに、僕たちの仕事は日経平均株価を5万円にすることだ。
 5万円になった後のことは知らない……

 きっと、日銀が考えるだろう。
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