第4話 コングロマリット・ディスカウントを解消しろ!(その2)

文字数 1,096文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「具体的にどうやって解消するつもりなの?」と僕は茜にコングロマリット・ディスカウントの解消方法を尋ねた。

 すると、茜は「親子上場ってあるだろ。あれをもっと増やせばいいんだよ」と言った。

 親子上場とは親会社と子会社が両方とも上場企業であるケースを指す。子会社の上場企業にも少数株主がいるものの、議決権の大半は親会社が保有しているためガバナンスが不十分であるとの指摘がされている。このことから、親子上場を解消して親会社のみが上場するのが現在の主流である。この場合、親会社は子会社をTOB(株式公開買付け)で非公開化する。
 茜の意見は時代と逆行しているのだ。株式市場から評価されるのだろうか?

「親子上場はガバナンスに問題があるって指摘があるよね?」
「そうだな。でもさ、コングロマリット・ディスカウントを解消するためには子会社を上場させないといけない」
「そうだけどさ……親子上場は避けた方がよくない?」
「別に気にする必要はないと思うけどなぁ。じゃあ、子会社だけ上場させて、親会社が非公開化するのは?」

 茜が言っているのは、ソフトバンクグループを非公開化してアームやTモバイルの持ち株会社だけ上場させるという意味だ。そうすればコングロマリット・ディスカウントが解消されるから時価総額は増える。
 理にかなっているのだが、そんなに簡単に話が進むのだろうか?

「企業再編に絡む話だから個別に事情があるよね。そんなに簡単にできないんじゃない?」
「そうかな? 子会社を積極的に上場させてほしいと政府関係者が社長に頼めばいいだけだと思うよ」

 茜は自信を持っているようだ。
 ガバナンス的に問題がありそうな案だから僕は「どう思います?」と新居室長に確認する。

 新居室長は「そうねー」と曖昧な反応だ。

「試しにシミュレーションすればいいんじゃない?」と茜。

 他に代案があるわけではないから「分かったわ、シミュレーションしてみましょう」と新居室長は言った。

 僕と茜はスーパーコンピューター垓に、政府から上場会社の経営陣に対して子会社の上場を強く推奨するようにインプットした。
 なお、親会社を全部非公開化するのは現実的ではない。だから、上場親会社はそのままで子会社を上場させることにした。また、上場会社の子会社であれば内部統制や財務報告体制ができているから、東証の上場基準を緩和できるようにした。

 垓のシミュレーションは10分で終了した。
 僕たちは垓の作成したシミュレーション結果のダイジェスト映像を確認することにした。

<その3に続く>
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