第1話 住宅ローンは固定派? 変動派?(その1)

文字数 2,105文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「だーかーらー、変動だって言ってんじゃん! ちゃんと聞いてた?」
「何よ、上司に向かってその口のきき方は!」
「あー、パワハラだー! 録音してコンプラ委員会に提出しよーかな?」
「何がパワハラよ? あんたの口が悪すぎるからでしょ?」
「口が悪いのは生まれつきですー」
「同じ幸子として恥ずかしい……あんた、そろそろ幸子から名前変えなさいよ!」

 僕が国家戦略特別室の前に着いたら、いつものように新居室長と茜の話し声が聞こえてきた。喧嘩しているのだろうか? 二人とも声が大きいから、この部屋で話し合っている機密情報が廊下に漏れているかもしれない。
 ただ、国家戦略特別室の業務のほとんどは失敗だ。重要情報なんか無いんじゃないかというツッコミは止めてくれ。

 今日も僕の一日が始まる。


 僕はドアを開けながら「おはようございます!」と二人に挨拶する。
「あー、志賀くん! いいところにきた!」と新居室長。

「今日はどうしたんですか? 廊下まで声が聞こえてますよ」と僕は口論の原因を質問する。

「いい物件があったから、住宅ローンの返済シミュレーションしてたの」
「室長、買うんですか?」
「ちょっと迷ってるんだけどね。これなんだ」

 そういうと新居室長は物件情報を僕に見せた。

「ここが二人の寝室で……ここが私の部屋。そして、ここが志賀くんの部屋だよ」
「僕も一緒に住むんですか?」
「そうよ。私がマンション買ったら一緒に住みたいって……この前、志賀くん言ったじゃない!」

 僕はそんなことを言った記憶がないのだが、新居室長の中ではそんなこと(妄想)になっているようだ。僕がどう返答しようか考えていたら、そんなことに興味のない茜が「それでさー」と話し始めた。

「住宅ローン借りるときに、このバカ室長は固定金利で借りるって言ってるんだ」

「バカは余計よ!」と新居室長。

 また喧嘩が再開しそうだから、僕は「まぁまぁ」と間に入る。

「固定金利なの? 変動金利じゃなくて?」
「そう。だから、変動金利にしとけって言ってたんだ。けど……このバカ聞かねーんだよ!」

「バカって言うな!」と新居室長。

 **

 ここで、日本の変動金利と固定金利の関係を説明しておこう。

 住宅ローンは借入条件や銀行によって金利水準がバラバラなので単純比較できないのだが、フラット35のデータによれば、2023年11月時点の固定金利(融資期間21年~35年、融資率90%以下、団信付き)が最低1.98%、最高3.53%だ。平均値が2.76%である。
 一方、変動金利であれば0.5%以下で借りられる銀行も多い。

 借入条件によるが、過去20~30年間において住宅ローンの変動金利が2%を上回った期間は無い。つまり、日本の金利政策が大幅に変更されて金利水準が諸外国並みに上がらなければ、固定金利で借入れをする必要性はない。
 日本の国債残高を考えると金利が上がる可能性は低いから、国債がデフォルト(債務不履行)しない限り現在の金利水準から大幅に上がることはない。
 だから、日本において固定金利で住宅ローンを借りる意味はほとんどない。

 住宅ローン金利の推移を示すのが難しいため、ここでは代わりに国債金利で説明する。

 まず、変動金利は元利金支払いの発生する間隔の金利となるため、毎月支払の場合は1カ月固定金利、6カ月支払の場合は6カ月固定金利を使用する。一方、10年固定の場合は10年固定金利、20年固定の場合は20年固定金利を使用する。
 つまり、変動金利と固定金利は参照する固定金利の期間が異なる。

 2021年9月末、2022年9月末、2023年9月末の年限ごとの国債利回りを比較したものが図表29-0だ。この年限ごとの曲線をイールドカーブ(利回り曲線)という。

【図表29-0:国債のイールドカーブ】



 3つの時点のイールドカーブは全て右上がりの曲線になっていて、金利を固定する年数が増えれば金利が増えることを表している(この状態を「順イールド」という)。
 10年ところだけ歪な形になっているのだが、これは日銀の金利政策であるイールドカーブ・コントロール(YCC)による影響だ。日銀は長期金利の指標である10年国債利回りを意図的に操作して、相場操縦している。

 さて、変動金利よりも固定金利の方が金利固定期間は長い。だから、固定金利は変動金利よりも高くなることが、このイールドカーブの形状から分かる。

 次に、2000年3月から2023年9月末までの満期1年、10年、20年、30年の国債利回りの推移を示したのが図表29-1だ。

【図表29-1:国債金利の推移】

 


 日本のイールドカーブは順イールドなので、短期金利(1年)が長期金利(10年)、超長期金利(20年、30年)を上回ることはない。

 住宅ローン金利を国債利回りから推測するのは難しいのだが、変動金利は1年国債利回り+0.5%、固定金利は長期・超長期国債利回り+1~2%くらいになるから、過去20年以上は変動金利が固定金利を上回っていないことが分かる。

<その2に続く>
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