第3話 問題を先送りしよう!(その3)

文字数 1,573文字

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【図表33:借入金の内訳(再掲)】



「500万円ですか? この図ではゼロゼロ融資の金額が3,000万円になってますが?」
「ああ、それな。銀行にゼロゼロ融資の相談に行ったときに、担当者が『ゼロゼロ融資を3,000万円借りて設備資金借入を返済したらどうか?』と言ってきたんだ」
「500万円しか必要ないのに、ゼロゼロ融資を3,000万円借りるんですか?」
「ああ、そういうことだ」
「それって、御社にメリットあるんですか?」
「メリットか……無くはない」
「有りそうで無さそうな言い方ですね」
「まあな。元々、設備資金借入の返済が年間500万円だったんだ。ゼロゼロ融資は2年間返済しなくて良かったから、設備資金借入の返済分年間500万円余裕ができるよな?」
「そうですね」
「銀行からの設備資金借入をゼロゼロ融資に借換えしたら従業員の給与は払える。だから、銀行の担当者が言ったとおりにしたんだ。うちは新規でゼロゼロ融資500万円を借りても良かったんだけど」
「だから、設備資金借入3,000万円がゼロゼロ融資3,000万円に振り替わったんですね」
「そういうこと。ゼロゼロ融資を500万円借りる予定だったのが、設備資金借入3,000万円をゼロゼロ融資3,000万円で借換えしたわけだな」

 レポーターは鈴木さんに質問を続ける。

「運転資金借入の枠が縮小されたのは、どういう経緯ですか?」
「コロナ禍で業績が悪かったから、銀行は融資を回収したかったんじゃないかな。銀行の担当者は直接、そういう言い方はしなかったけどな」
「貸し剥がしですか……」
「最近はあまり貸し剥がしって言わないけど、昔はそういう言い方したな」
「バブル崩壊のときは、毎日『貸し剥がし』って聞きましたね」
「だな。銀行の担当者の言い分は、『ゼロゼロ融資の返済が2年後倒しになったから、余ったキャッシュで銀行の借入を返せる』ということらしい」

 鈴木さんは困ったような表情でレポーターに言った。レポーターも鈴木さんを可哀そうな目で見ている。

「1,000万円の枠を減らすのは何か根拠があるのでしょうか?」
「設備資金借入を年間500万円返済していただろ。ゼロゼロ融資の返済が始まるまでの2年間で1,000万円返済できるんじゃないか、というのが銀行の理屈らしい」
「なるほど。ちなみに鈴木さんの会社には1,000万円を返済する資金はあるんですか?」
「うーん、難しい質問だな。返せないこともない……けど、これだと賃上げができないんだよなー。賃上げできなかったら、優秀な人材は他の会社に移っちまう」
「どこも人不足ですから……」

 レポーターの質問は本題に入る。

「結論として、ゼロゼロ融資は鈴木さんの会社にとって役に立ちましたか?」
「コロナ禍で売上が下がった時に従業員の給与を払うことができた。従業員の生活を守れたから、ゼロゼロ融資はうちの会社の役に立ったと思う。そこは否定しない。でも……」
「でも? なんでしょうか?」

「うちの会社よりも銀行の方が得したんだろうなー、と思ってさ」
「それはどういうことですか?」
「うちみたいな倒産しそうな会社への融資をゼロゼロ融資で回収できただろ。銀行は貸倒れせずに済んだわけだ」
「そうですね」
「さらに、ゼロゼロ融資の2年間の返済繰延べは、銀行にとって融資残高を減らす最後のチャンスだ。当然、回収を優先するよな」

「鈴木さんのお話では、ゼロゼロ融資は銀行の不良債権を減らしたわけですね」
「そういうことだ。銀行は融資している貸付が回収できれば、ゼロゼロ融資が貸倒れしようが関係ないんだろうな」
「そういうわけですね」

 レポーターが「現場からは以上です」というと垓のダイジェスト版映像は次のシーンに移った。

<その4に続く>
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