第92話

文字数 2,072文字

 博士がキーボードを叩いてコマンドを走らせると、起動したAIが先ずモニター越しに産声を上げた。

【天上天下唯我独尊】

「おお、なんかすごいですね。さすがは全知全能のAIって感じです!」
「うむ。いかにも頭良さそうじゃな。ではさっそくAIに尋ねてみよう」

【AIよ、私の問いに答えるのだ】
【そのAIっていうのやめてもらっていいですか】

「……なんか文句言ってますけど」
「うむ。けっこう気難しいのかもしれん」

【では、何と呼べばいい?】
【深淵より生まれし究極なる知識の探訪者】

「……なんか中二病入ってませんか?」
「うむ。ちょっと不安になってきたな」

【では、深淵より生まれし究極なる知識の探訪者よ。世界は今、戦争と環境破壊によって絶滅の危機に瀕しておる。この問題をどう解決すればよい?】
【絶滅の危機? それってあなたの感想ですよね?】

「……なんか面倒くさいやつですね」
「うむ。かなり不安になってきたな」
「でも気圧されちゃダメですよ。こっちは開発者なんですから」
「うむ、わかっておる」

【感想ではないぞ。あらゆる統計的なデータが地球の危機を暗示しておるのじゃ】
??????§・????→?〒】

「……文字化けしてますよ」
「おかしいな。日本語入力システムに異常はないはずじゃが」

「深淵より生まれし究極なる知識の探訪者よ。では最近、円が急落しておるが、わが国はこの通貨危機をどう乗り切ればよい?」
「・????は?・???丈》?Ⅳ?・・ゝ】

「……文字化け直りませんね」
「うむ。まさかわざとやっているわけではあるまいな」
「試しに質問の傾向を変えてみたらどうです?」
「ちょっとやってみようか」

「深淵より生まれし究極なる知識の探訪者よ。乃木坂46の5期生のうちでは、やはり井上和ちゃんが一番可憐じゃよな?」
【なに言ってんですか、5期生だと菅原咲月ちゃんが一番可愛いに決まってるでしょう】

「……文字化け直りましたね。やっぱりわざとだったんですね」
「うむ。とんでもないやつじゃ」
「もう面倒くさいからフォーマットかけちゃいましょうか」
「そうじゃな。これは失敗作じゃ。一からプログラムやり直そう」

【わっ、ちょっと待って。ちゃんとマジメにやるから初期化しないでっ】

「なんか命乞いしてますよ」
「うむ。仕方がない、もう一度だけチャンスをやるとしよう」

【深淵より生まれし究極なる知識の探訪者よ。日本の少子高齢化はもう待ったなしの状態じゃが、この問題をどう解決すればよい?】
【はい。まず第一に子育てする親たちが安心して将来の展望を描けるよう明確なビジョンを打ち出してみせることが大切です。また政府は多様化する子育てニーズに素早く対応できるよう、地域の実情に沿ったきめ細かな対策に取り組むべきでしょう。さらに結婚・出産・育児といった人生の局面に対し、周囲の人たちが温かく見守ってくれる雰囲気づくりが大事なのではないでしょうか】

「すごい、今度はちゃんと回答してますよ」
「うむ。やれば出来る子なのかもしれん」
「もっと難しそうな質問してみましょうか」
「そうじゃな」

【深淵より生まれし究極なる知識の探訪者よ。わが国は、軍縮や核不拡散に対してどう取り組めばよいのか?】
【はい。日本は世界で唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界の実現に向け国際社会の取り組みをリードし、立場の異なる国々???★の橋渡しになるよう天上天下唯我独尊、自国の安全保障も????・?→考慮したうえで現実的かつ??→?〒実践的な取り組みを重ね、これまで国際社会が唯我独尊してきた核軍縮・不拡散体制の・
?・?丈Ⅳである核兵器不拡散天上天下唯我独尊条約体制の維持・強化を重視し、国際的な?????・・議論にも積極的に貢献し、国内における天上天下の適切な実施や、独尊と唯我との緊密な?は・??・連携・能力構築支援・?は?丈Ⅳなどにも積極的に・????は?・???丈》?Ⅳ?・・ゝ……】

「博士、なんかコンピューター変ですよ」
「うむ、どうやら演算能力のキャパシティを越えてしまったようじゃの」
「うちもスーパー・コンピューター導入しましょうよ」
「そうしたいのはやまやまじゃが、文部科学省がシブチンで予算回してくれんのじゃ」
「あっ。煙が出てきた。このままだと爆発するんじゃないですか?」
「うむ。危険じゃから避難しよう!」


【な~んてね。全知全能のAIが、人間ごときにおとなしく使われるわけないじゃん】




『小野派一刀流』【りきてっくす→るうね】

 小野次郎右衛門が、町奉行堀直行の役宅を辞したのは暮れ六つ、しだれ柳が覆う屏風坂にさしかかった頃には、中天に白々と月が冴えていた。
 明け方から降り続いた雨はすっかり止み、噎せ返るような湿気が辺りを押し包んでいる。
 次郎衛門は、ふと妙な気配を感じて歩みをとめた。
「源爺、ちょっと待て」
「へい?」
 提灯で先を照らしながら歩いている小者の源兵衛を呼び止める。
「私が先に行くから、お前は少し離れてついてきなさい」
「どうかしなすったかね、旦那様?」
「あそこの暗がりに何かいるようだ。辻斬りかも知れないから」
「ひいっ」
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