第15話

文字数 927文字

「蹴られた?」
 高木から事情を聞いた俺は、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「お前が?」
 高木は空手二段だ。その高木を蹴り飛ばしたって……。
「どんだけ強いんだよ、あの子」
 僕の漏らした言葉に、高木が口を開こうとした、その時。
「頼もうっ!」
 教室の戸ががらりと開いて、バンカラ風の大男が入ってきた。あいつは……団打弾! 自称空手百段の猛者である。以前、高木と試合したところを見たことがあるが、あの高木が全く相手にならなかったほどの男だ。
 団は、教室の中を睥睨すると、やおらあの転校生の席に近づいていった。
 ちらり、と転校生が団に視線を投げる。
「お主か、高木をのしたっちゅうオナゴは」
 転校生は応えず、小さくため息をついた。
「なるほど、ただもんじゃなさそうじゃの。わしと勝負せいっ!」
 団の言葉に、転校生はもう一度ため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。両腕を上げて、臨戦態勢。
 団が、にぃっと凶暴な笑みを浮かべる。
「話が早くて助かるわい」
 そう言って、団もまた構えを取った。
 教室内が静まり返る。
 先に動いたのは、転校生の方だった。素人目にもゆっくりに見える蹴り――それが、吸い込まれるように団の首筋を穿った。
 一撃で昏倒する団。
「……そんなすごい蹴りには見えなかったけど」
「お前の位置からなら、そう見えるだろうな」
 高木が言う。
「正面に立てば分かる。蹴りを放つ瞬間に見えるパンチラ。あれに目を奪われない男はいねぇ。あれこそ……パンチラ神拳」
「パンチラ神拳……」
 すでに、転校生は平然と席に戻っている。
 僕はその姿に恋をした。
 その後、彼女は校内で暴力沙汰を起こしたとして退学となり、僕の恋も終わった。


『ちんこスリ』【るうね→りきてっくす】


 幼い頃から、手先だけは器用だった。
 それ以外には何の才能もなく、倫理観も低かったため、必然的にスリになった。捕まったことはない。まあ要するに、スリとしては達人と言えるだろう。手の中に収まるものであれば、俺にスれないものはないという自負もある。
 だが……。
「まさか、こんなものをスっちまうとは……」
 俺は、手の中のちんこを見つめながら、つぶやいた。
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