第51話

文字数 649文字

 この時、奇襲を受けたのは武田軍の左翼であった。
 大将は浅利信種。武田家の譜代家老衆であり、勇猛果敢さでは比肩する者はなかったと言う。
 綱成の攻勢をよく凌ぎ、一時は押し返すところまでいった。
 だが、一発の銃弾が彼の運命を変える。
 右ひじに鉄砲の流れ弾を受け、信種は本陣に退がっていった。
「おのれ綱成めが!」
 銃弾を受けたとはいえ、信種は意気軒高であった。軍監の曽根昌世に対し、唾を飛ばして吠える。
「騎馬隊を出すぞ、用意せい!」
 しかしながら、昌世は動かない。この時、軍幕の内にいるのは信種と昌世だけである。
「聞こえなかったのか! 馬を」
 唐突に、昌世が動いた。信種の喉仏のあたりを短刀で突き刺す。悲鳴すら上げずに、信種は倒れ伏した。
 軍幕から出た昌世は部下たちに言う。
「浅利どのは受けた銃弾の傷がもとで戦死なされた。以後は、軍監である私が指揮を執る」


 後に、曽根昌世は武田家を裏切り徳川家に仕えることとなる。
 この時点で曽根が徳川家と通じていたかどうかは定かでない。
 ただ、家康が浅利信種を危険視していた、という伝聞は残っている。



『逆転サイパン』【るうね→りきてっくす】

「つまり、被害者の死亡推定時刻にアリバイがないのは被告人、美馬光明だけなのです。また、美馬氏は被害者に強い恨みを持っていた。さらに凶器も美馬氏の家から発見されている。以上のことから、検察は美馬氏を被害者、竹部雄三氏殺害の犯人であると断定します」
「異議あり!」
 サイパンの人でごった返すビーチに、弁護士の朗々とした声が響き渡った。
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