第74話

文字数 1,841文字

「アブラカダブラ・ムニャムニャムニャ――」
「なんですかそれ?」
「気にするでない、霊力を高める呪文みたいなものじゃ」
「はあ」
「では、これより神託をさずけるぞよ」
「よろしくお願いします」
「ムニャムニャムニャ春の天皇賞はマルイチヘリオスが優勝する!」 「ええっ!」
「わはは、神は嘘は言わん」
「でも、マルイチヘリオスはすでに一番人気なんですが」
「そうなのか?」
「もっかG1五連勝中で、予想オッズは1・2倍となっております」 「うむむ」
「予言以前に、すべての競馬新聞で一着が確実視されてますけど」 「……フン、いまのは小手調べ、本番はこれからじゃ。あっと驚くような神託を授 けるゆえ、心して聞くがよい」
「はあ」
「では参るぞよ。ムニャムニャムニャ来月の市長選挙は、現職の丸川与一が再選を 果たすであろう!」
「ええっ!」
「わはは、恐れ入ったか」
「でも、丸川氏は自民・公明が推薦、立憲・維新・国民などがそろって支持を表明 する、ガチガチの当確候補なんですが」
「そうなのか?」
「対抗馬は、共産党公認の弁護士のおばちゃんだけで、投票率も過去最低になるだ ろうと予想されてます」
「うむむ」
「選挙なんてやる必要ないじゃん、というのがもっぱら地元民の声らしいですけ ど」
「フン! いまのも小手調べ! 本番これから!」
「はあ」
「ムニャムニャムニャ今後の日本経済の先行きは、新型コロナウイルスの影響とエ ネルギー価格の上昇によりマクロ的な需要ギャップと中長期的な物価上昇率の高ま りを受けてリスクバランスは概ね下揺れのまま推移するため経済全体としては小幅 なプラス成長がつづく見通しだろうとムニャムニャ……」
「それ、今朝の日経新聞ですよね」
「ムニャムニャムニャ本日の関東地方の天気は、大陸から張り出した前線の影響で 局地的なにわか雨や雷雨となる恐れがあるでしょう。お出かけのさいは傘の用意を お忘れなく」
「すでに雨降ってますけど」
「ムニャムニャムニャ」
「あなた、本当に神様ですか?」
「なに、おぬし神を疑うのか?」
「だって、変な予言ばかりするんだもん」
「ぐぬぬう、下等なる人間の分際で――」
「そう熱くならず、神様にだって違いはありますから」
「われの予言は真なるぞ」
「はあ」
「われ、こののち起こるべきことを僕どもに示さんとして、エルサレムにある七つ の教会に予言を知らしめん」
「ええと」
「なんじ神を拝し、かく唱えよ。聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、昔いま し、今いまし、のち来たりたまう、主たる全能の神と」
「困ったな」
「やがて、天に開かれし七つの門より聖なるラッパ奏でられるとき、われ速やかに 天に至らん――」
「あ、逃げた……」



『妄執のコスモス』【りきてっくす→るうね】
 ミッションをやり終えた後ってのは、むしょうに女が抱きたくなるもんだ――。
 こない言うてはったんは、たしかアルファ・ケンタウリ第四師団のロベルト・ポ ンチョ将軍やったかいな。いやひょっとすると、ベータ・シリウス解放戦線のトー マス・バヨエーン伯爵の言葉やったかも分からへん。まあ、そないなことこの際ど うでもよろし。とにかくわいは今、蛇つかい座のアルファ・ラス・アルハゲにある国
際宇宙ステーション「おらがふるさと星の駅ナンバー・シックスティ・ナイン」で の約一ヶ月半にもおよぶ退屈極まりない勤務を終えたばかりやったさかい、なんち ゅうかこう、ひじょうに清々しい気分になっとったわけや。いや、清々しいいうの は嘘やで。ほんまは、少し気ィが昂ってたねん。下半身の、とくに尿道球腺から精 管末端部にかけてのあたりに官能的な疼きすら覚えとった。ようするに、溜まりに 溜まった性欲をもてあまして、じつのところ破裂寸前やったわけや。原因は、新し く任官してきた上司、バルトリン・キンスキー女史のあまりにも扇情的な肉体、ま さに造形美における黄金比率、グラマラスの極地、ボン・キュッ・ボーン。もちろん
彼女のほうでは、わいなんかには興味あらへんさかい、土下座して頼んだって指一 本よう触れさせてはくれへんやろうけど……と思ってたら、そのキンスキー女史か ら突然の呼び出しがあった。それも執務室のほうやなくて、なんとなーんと、官舎 にある彼女のプライベート・ルームや。
「いったいなんの用事やろ? もしかして……あかん、よからぬ想像してたらズボ ンのまえ膨らんできよった」
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