第55話

文字数 452文字

 打ち込んだ文字を親指の連打で全部消す。そして、七文字だけ打ち込む。【あなたはだれ?】本当は分かっていた。彼の浮気相手。彼を殺した相手。彼の死体の第一発見者はわたし。その前に、彼女が彼の部屋から出てくるのを見た。そして、わたしは彼の死体を自殺のように偽装した。雑な偽装だとは思ったが、警察にはばれなかった。なぜ恋人を殺した相手を庇うようなことをしたのか。……たぶん。メールの返信は来ない。再び文面を打ち込む。【そう怯えないで。あなたのことは誰にも言わない】メールの送信先にいるはずの彼女に向けて。怯え、わたしの知っていることを探ろうとして、真司の振りをしてメールしてきた。興味本位で、それに付き合っているうち、彼女に対しても妙な憐情が湧いてきた。同病相憐れむ、といやつ。でも、もう終わりにしよう。メールの送信。やはり、返信は来なかった。


『小指』【るうね→りきてっくす】

 爪が伸びていた。右手の小指だけ。
「おかしいな、一昨日切ったばかりなのに」
 わたしは首をひねって、戸棚の引き出しから爪切りを取り出した。
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