第85話

文字数 889文字

「うるさいなぁ……」
 叫んだエミリを結花がわずらわしそうな目で睨む。
「大体、山に男ひっかけに行こうか、って言ったのはエミリじゃない」
「だって、まさかこんな天気になるなんて思わなかったんだもん!」
 びしょ濡れの身体で天を指差す友人に、結花は、はぁとため息をついた。
「そもそも、登山に来る男なんて年配の人ばっかりだって」
「そんなことないよ! CMでは、かっこいい男の人が女の子を助けていい仲になってたもん!」
 もはや反論することもなく、結花は息を吐く。
「それにしても、本格的にやばいかも。このままの天気が続けば、体が冷えて体力が奪われるし、道もぬかるんで歩きにくいし」
「それって、遭難ってこと?」
「そうなるね」
「やばいじゃん!」
「どっかに雨宿りできる場所があるといいんだけど……」
 結花は辺りを見回すが、そんな場所は見当たらなかった。
 と、その時。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

「え」
「な、なに? この音」
 彼女たちがつぶやいた次の瞬間、凄まじい轟音が辺りに響いた。大地が揺れ、立っていられなくなった二人は地面に突っ伏す。
「な、なんなの?」
 数瞬後、空から大小の石が降り注いだ。
 その石で頭を打ち、二人は死んだ。


 彼女たちを不幸だと思うだろうか。
 だが、実際には彼女たちは幸運だったのだ。
 その日、世界の山々は神の怒りとばかりに各地で噴火した。
 そして、人類はその数を激減させ、築いてきた文化も水泡と化したのである。
 待っていたのは、飢餓と貧困、そして残ったわずかな資源をめぐっての争いだった。
 それを経験しなかっただけ、二人の山ガールは幸せだったと言えるだろう。



『ビデオ』【るうね→りきてっくす】

 押入れから、VHSのビデオテープが出てきた。
 幸いにも、まだ稼働するデッキを所持していた僕は、そのテープの中身を確かめることにした。
 ラベルに「1997年」と書かれたテープをデッキに挿入する。と、テレビの画面に映像が出てきた。
 一人の少年が老人と遊んでいる。老人は、七十歳ぐらいに見えた。今生きていれば、百歳近いだろう。
 その老人の顔をまじまじと眺めて、僕はつぶやいた。
「誰だ、これ……」
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