第6話

文字数 3,142文字

「あの……もう一回言ってもらえますか?」
 医者は迷惑そうに言った。
「ちゃんと聞いてくださいよ。ずっこんばっこんやってるうちにスーダラ節を踊りつつヨガファイアーで宇宙旅行したまま絶望のうちに屁をこいてそのまま胃潰瘍のようでいてそうでもない感じのただの風邪でもないうんこを垂れ流しつつヒップホップとブレイクダンスを同時にプロテインで全て解決しないかもしれない病、です」
「長い病名ですね」
「わたしも覚えるのに苦労しました」
「それで……」
 佐田沼が恐るおそる尋ねる。
「この病気は治るんでしょうか?」
 医者はキッパリと言った。
「残念ながら、治療法は確立されていません」
「え、すると……」
「このままだと、あなたは一年以内に死にます」
「そんなっ」
 佐田沼は医者にすがりついた。
「なんとか助けてください。お願いしますっ」
 医者が鷹揚にうなずく。
「分かっています。じつは最新の研究で、この病原を死滅させる新種のウイルスが発見されているのです」
「それは……いったいどんなウイルスなのでしょう?」
「中南米産のタピオカをアンフェタミンで割ったらヨヨイのヨイで尿漏れしてヤンデレ彼女にぞっこんのイタリアンマフィアはドン・キホーテでプチプラのタンポン万引きしたらアカンでしょウイルス、です」
「これまた長い名前ですね」
「覚えるのに苦労しました」
「それで……」
 佐田沼がふたたび尋ねる。
「そのウイルスを使えば、ぼくの病気は治るんですね?」
 医者は困ったように頭をポリポリかいた。
「いやじつは、ウイルスを体内へ注入すれば、たしかに病原は退治できるんですが、そのかわり、中南米産のタピオカをアンフェタミンで割ったらヨヨイのヨイで尿漏れしてヤンデレ彼女にぞっこんのイタリアンマフィアはドン・キホーテでプチプラのタンポン万引きしたらアカンでしょ症候群、というのに罹患する可能性がひじょうに高いです」
「え、すると……」
「結局、あなたは一年以内に死にます」
「そんなっ」
 佐田沼は机をドンと叩いた。
「それじゃ解決にならないでしょっ」
 医者があわてて付け加える。
「まだ話は終わっていません。じつは最新の研究で、ある種の原虫が分泌するタンパク質が、このウイルスを死滅させられることが分かっています」
「ほう、その原虫とは?」
「イラヨイ波照間島で修行したとなりのパティシエが提婆達多の魂やどして大ちゃんドバッと丸裸イヤーん愛して命じてご主人様はパイポパイポのシューリンガンのポンポコピー住血吸虫です」
「フン、これまた長い名前じゃないですか」
「覚えるのに苦労しました」
「どうせ、それが原因でけっきょく死ぬのでしょう?」
「だんだん世の中が分かってきましたね」
 佐田沼は投げやりに言った。
「つまりわたしは、どうあっても助からないということですね。分かりました」
 医者がコホンと咳払いする。
「いや待ってください。あきらめるのは早いです。じつは最新の研究で、この原虫を退治できる病原菌があることが分かりました。それがなんと、ずっこんばっこんやってるうちにスーダラ節を踊りつつヨガファイアーで宇宙旅行したまま絶望のうちに屁をこいてそのまま胃潰瘍のようでいてそうでもない感じのただの風邪でもないうんこを垂れ流しつつヒップホップとブレイクダンスを同時にプロテインで全て解決しないかもしれない菌、なのです」
「けっきょく一周して元へ戻ってきましたね」
「まあ、そうですが、この三つの病原を同時に注入すれば、あなたの体内で三つ巴の戦いが繰り広げられ、運が良ければすべての病気が治せるというのがわたしの理論なのです。ウヒヒヒ――」
「なんだか嬉しそうですね」
「この治験で論文が書けますから。どうします、わたしの治療法を受け入れますか?」
 佐田沼は、あきらめたようにため息をついた。
「この際しかたありません。どのみち治療法は確立されていないんだ。あなたにすべてお任せしますよ」
「おお、ではさっそく」

 こうして一週間後が経った。
「やったぞ。すべての病原が死滅した。これであなたは助かります。治療が成功したんですよ」
 検査データを持って医者が病室に駆け込んできた。佐田沼がベッドから起き上がる。
「えっ、本当ですか。ありがとうございます。これもみんな先生のおかげだ」
「しかもですね、あなたの体内で新種の抗体が作られたのです。これを使えば、今後おなじ病気で苦しむ人たちの治療が容易になります」
「それは素晴らしいことじゃないですか」
「わたしは発見者として、この抗体に名前をつけようと思うのです」
「ほう、どんな名前を」
「ずっこんばっこんやってるうちにスーダラ節を踊りつつヨガファイアーで宇宙旅行したまま絶望のうちに屁をこいてそのまま胃潰瘍のようでいてそうでもない感じのただの風邪でもないうんこを垂れ流しつつヒップホップとブレイクダンスを同時にプロテインで全て解決しないかもしれないけど中南米産のタピオカをアンフェタミンで割ったらヨヨイのヨイで尿漏れしてヤンデレ彼女にぞっこんのイタリアンマフィアはドン・キホーテでプチプラのタンポン万引きしたらアカンでしょと思いつつイラヨイ波照間島で修行したとなりのパティシエが提婆達多の魂やどして大ちゃんドバッと丸裸イヤーん愛して命じてご主人様はパイポパイポのシューリンガンのポンポコピー免疫細胞、というのはどうでしょう?」
「WHOが却下すると思います」



『島の獄』【りきてっくす→るうね】
 
 波が護岸ブロックに砕け、白いしぶきを散らしていた。
 暗雲の垂れ込めた空は、低い。
 祐一は、ため息をついた。
 一縷の望みをかけ発着場へ来てみたが、やはりフェリーは欠航したままだった。
「……まったく、ついてないな」
 赤錆の浮いたボラードに腰かけ、たばこに火をつける。県道に植わったクバの木が、はげしく枝をしならせていた。予報では、明日の昼すぎには沖縄全域が暴風域に入るらしい。
「ニィニィは、ヤマトのひと?」
 不意に声をかけられ、ハッとして振り向く。コンビニ袋をさげた娘が、ジッとこちらの様子を窺っていた。
「観光ね?」
「ああ、うん、北海道から来たんだ」
「アイ、北海道ね。それはまた、ずいぶん遠くから」
 娘は目を瞠ると、親しげに微笑みながら近づいてきた。
「この島って、なにもないでしょう? 観光なら、本島のほうが面白い場所いっぱいあるばァよ」
「いや、観光というより趣味で離島の写真を撮ってまわってるんだ。この島の景色は美しいよ。建物にも情緒がある。でも来た時期が悪かったよ。まさか台風で足止めを食らうとは」
「ふうん……」
 巻きスカートのすそを抑え、娘がとなりにしゃがみ込んだ。祐一は、少しどぎまぎした。よく見ると沖縄人特有の、目鼻立ちのくっきりした美しい顔をしている。
「たばこ、一本もらえる?」
「あ、どうぞ」
 娘は慣れた手つきでたばこに火をつけると、しばらくしてゆっくり煙を吐いた。
「なんくるないさー。台風は大陸のほうへ逸れるはずよ」
「どうして分かる?」
「空よ、空。島暮らしが長いからね。雲の動きを見ただけで分かるさー」
 そして急に声をひそめて言った。
「それよりニィニィ、フェリーが動くようになったら早くこの島出たほうがいいばァ」
「え、なんで?」
「変だと感じなかった? この島へ降りたとき」
「べつに感じなかったけど……」
 そのとき周囲に警戒の目を走らせていた娘が、息を飲んだ。
「アキサミヨっ」
「どうした?」
 娘は立ちあがって、祐一の手を引いた。
「ニィニィ、走るよっ!」
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