第75話

文字数 902文字

 まあ、そんなうまい話もないやろ。
 そう思いつつも、彼女の部屋に行く前にシャワーを浴びてしまうのが、雄の悲しい性というやっちゃ。
 で、滞りなくシャワーを浴びた後、体中に香水を振りかけていると、そこで部屋のチャイムが鳴った。
 なんやろうか。もしかして、我慢しきれずに彼女の方から――。
 あわてて服を着て、ズボンの前の膨らみを隠すため、腰を引きながら玄関のドアを開けると、そこには後輩のニューリン・グロッサムが立っていた。ニューリンはそのつぶらな瞳でわいを見つめ、いま時間大丈夫ですか、と尋ねてきた。
 いや、いまからキンスキー女史としっぽりする予定やから。
 そう言おうとしたが、よく考えなくても、そんなのはただの妄想であり、そうそううまい話などあるはずもない。そんな妄想より優先すべきは、目の前の可憐なニューリンちゃんの話を聞くことなのでは。
 そう思い、わいはニューリンちゃんを部屋に通したんや。それがとんでもない間違いだと気づいたのは、延々と彼女が「神」について話し始め、三時間ほどが過ぎた頃やった。なんとかかんとか話をごまかし、彼女にお帰り願った頃には、キンスキー女史に指定されていた時間はとうに過ぎとった。
 だが、あわてることはない。あわてる乞食はもらいが少ないかもしれないが、あわてない乞食はそもそも乞食などやっていない、とはシグマ・プロキオン聖騎士隊のジョルジュ・ガチョーン隊長だったような気がする。言葉の意味はよく分からないが、ともかくあわてることはないんや。なぜなら、わいにはタイムリープマシンがある。意識だけを過去に戻すことのできる優れものだ。
 わいはそれを使い、過去のニューリンちゃんの申し出をきっぱりと男らしく断り、ズボンの前の膨らみを隠すため腰を引きながら、キンスキー女史の部屋に向かって、そこでスパイとばれて毒殺されたんや。
 以上や。



『ピンチ』【るうね→りきてっくす】


 困った。
 ピンチだ。
 何がピンチって、お腹が痛い。にも関わらず、周囲にはトイレが見当たらない。それどころか、あたりは火の海だ。そんな中、俺は数十人の悪漢に取り囲まれ、彼らは手に手にピストルやマシンガンを持っていた。
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