第98話

文字数 1,220文字

「ちょっと待って。ここにもオチがあるわ」
「本当だ。ふむふむ、このオチだと君が僕を殺す結末になっているね」
「やだわ、わたしが殺人を犯すだなんて」
「でも君、ひそかに青酸カリ隠し持ってるよね」
「あら、どうして知ってるの」
「そりゃ夫婦だし、内緒で一億円の生命保険を掛けてることだって知ってるさ」
「なんだ、すべてお見通しだったの」
「さすがと言いたいところだけど、やはり小説のオチとしては平凡すぎるね」
「そもそも作者は、何故こんなところにオチをばらまいてるのかしら?」
「なんでかな……」
「ひょっとして、作品の未来を登場人物に託したとか?」
「そんな建設的な理由じゃないと思うね。まあどちらにせよ、君か僕のどちらかが死ぬ運命にあるわけだが」
「あなたが死ねば」
「酷いこと言うね。君こそ死にたまえよ」
「わたしは、もっと長生きしたいもの」
「僕だってそうさ」
「あ、ちょっと待って、ここに別のオチが」
「まったく優柔不断な作者だな。で、今度はどんなオチだい」
「わたし達の子供が現れて、パパ、ママけんかはやめて! と仲裁に入るそうよ」
「僕たち子供いたっけ?」
「いないわね。あなた隠し子は?」
「いるわけないだろう」
「じゃあ、どういう事かしら」
「もう続きを考えるのが面倒になったんじゃないのか」
「ところであなた、このお話に文字数制限がかけられてるのをご存知?」
「え、そうなのかい」
「1000文字までよ」
「大変だ。あと何文字残されているんだ?」
「142文字」
「早く話を落とさなきゃ」
「正攻法じゃもう無理よ。はい、あと111文字」
「やばい、終わってしまうぞ」
「90文字」
「いちいち文字数カウントするの止めてもらえないかな」
「57文字」
「しょうがない、こうなったら」
「36文字」
「君、ちょっと顔こっちへ寄せて」
「14文字」

「ダメだこりゃ」




『鴨』【りきてっくす→るうね】

「わーっはっはっは、いや愉快、愉快!」
 と笑いながら、新撰組の芹沢鴨は懐から取り出した鉄扇で顔を仰いだ。商家の屋根に堂々とあぐらをかいている。目の前では、大和屋庄兵衛方の土蔵が勢いよく燃えていた。借金を断られた腹いせに、彼が隊士へ命じて大砲を打ち込ませたのである。すでに戌の刻を過ぎて町家はどこも大戸を降ろしていたが、騒ぎを聞きつけた多くの人たちがこれを遠巻きにして固唾を飲んでいた。
 芹沢は、上機嫌でふたたび鉄扇を振り上げた。
「そうれ、もう一発じゃ。私欲に耽る奸商に、目にもの見せてくれようぞ。撃ち方、放てーっ!」
 
 このとき壬生の屯所では、もう一人の局長である近藤勇が茶をすすっていた。
「ぶぶーっ」
「わ、汚えな近藤さん」
 隣で刀の手入れをしていた土方歳三が顔をしかめる。
「おいらの大切な兼定が汚れるじゃねえか」
「なっなっ何だ今の音は?」
「さあな、どこかで花火でも上げてるんだろう」
「いや、そんな報告は聞いておらんぞ」
 近藤は腕組みして、その大きな口をへの字に曲げた。
「歳さん……俺ぁ何だか妙な胸騒ぎがするぜ」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み