第63話

文字数 706文字

 さっそく、俺は着替えて病院に向かった。
 初めて訪れる病院なので、まずは問診票に記入。待合室でじりじりするような時間を過ごし、ようやく名前が呼ばれる。
「蜂ヶ谷賢治さーん」
「はい」
 俺は、飛び込むようにして診察室に駆け込む。
「先生、実は血尿が」
 言いかけた俺の口が動きを止める。
 矢が。
 医師の頭に矢が刺さっていた。
「どうしました?」
「い、いえ、その……その頭、は?」
「頭? 何を言っているんですか」
 ともかく座ってください、と医師は俺に着席を促した。椅子に座りながらも、俺は医師の頭に刺さった矢から目が離せない。
「問診票では血尿が出た、とありますが……」
 淡々と診察を進める医師。
 俺は何とか自分の症状を医師に伝える。矢が気になって仕方ない。
「ふむ、なるほど」
 医師は難しい顔をして黙り込んだ。そんなことより、その矢は。
「分かりました。ちょっとうちでは治療が難しいので、別の病院を紹介します」
「は、はあ」
 矢。
 結局、一言の説明もなく、紹介状を渡され別の病院に行くよう指示された。俺は頭をひねりながら、病院を出た。
 俺は幻でも見ていたのだろうか。


「先生。さっきの患者さん、結局、なんの病気だったんですか?」
「ああ、一種の精神病だね。血尿が出たという幻視に悩んでいたようだ。他にも、いくつか幻視の兆候があったので、近くの精神病院を紹介した」
「そうなんですね。ところで先生」
「ん?」
「また頭に矢が刺さってますよ」



『女子高生総理』【るうね→りきってくす】


 どうしてこんなことになってしまったんだろう?
 自問自答したが、答えがでるはずもない。
 ともかく、一介の女子高生である私は今、内閣総理大臣に指名されようとしていた。
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