第88話
文字数 1,593文字
抽選でようやく手に入れたばかりの最新ゲーム機スレイプテーション46の電源を入れる。機械のなかでコンデンサーモーターがブゥーンという低い唸り声をあげる。
よし、オープニングが始まった。
お馴染みのテーマ曲に合わせ、美麗なグラフィックが3Dホログラムとなって映し出される。うん、さすがスエクニ、こういうところは手を抜かない。
つぎにパーティメンバーの選択画面だ。
人員は全部で3名。
最初だし、ここは鉄板でゆこう。
ぼくは戦士、魔法使い、僧侶の順に選んでいった。
と、目のまえの空間が輝きだす。おおっ、さすがは最新作。キャラクターも3Dで描かれるのか。
だが違った。
ぼくの眼前では、まったく想像もできないような光景が繰り広げられる。
まず、極小のレゴを組み合わせるようになにかが形造られてゆき、それは人間の脊髄となった。そこからさらに全身の骨格が形成されてゆき、肋骨のなかには内臓がみっちりと詰め込まれる。やがて骨格のまわりを筋肉が覆い、最後に全身の皮膚が形成された。
それはまるで、九相図を逆回しで見ているような光景だった。
「なんだこれ?」
おれは、あわててヘルプ画面を確認した。
「ええっ、まじかよ!」
そこには驚愕の説明がなされていた。なんとキャラクターの作成では、周囲の元素から細胞を合成し肉体を再構築するらしい。つまり本物の人体を作ってしまうというわけだ。
「こ、これが最新の技術……ちょっとスゴ過ぎる」
おれは感動で口がきけず、ぽかんと前方を眺めていた。すると目のまえにならんだ三人が、順番に挨拶をはじめた。
「はじめまして。私はブライアンといいます」と戦士のおっさん。
「ふぉふぉふぉ、わしはアダムスキーじゃ」と魔法使いのじいさん。
「回復はおまかせ。シスターのキャサリンよ」と僧侶の美少女。
ぼくはあわてて頭を下げた。
「あ、どうも、ぼくは村岡たかしです。えと、ゲーム内では一応勇者をやらせていただきます」
一通りあいさつも済んだところで、戦士ブライアンが「ではそろそろ始めましょうか」と言った。
ぼくはドキドキした。
リアルキャラ四人で、いったいどんな冒険をするのだろう。もしかしてダンジョンなんかも現実に作ってしまったりするのだろうか。なんたって最新技術だもんなあ……。
と、三人はぼくの周りで車座になって、いきなりカードを配り始めた。
「……え?」
カードの山を作りながら戦士のおっさんが言う。
「最初はスターターキットを使用しますので、攻撃や呪文のカードはバランス良く配置されていると思います」
ふぉふぉふぉと笑いながら魔法使いのじいさんも言った。
「ただし、クリーチャーのデッキだけはレベルがランダムじゃから、じゅうぶん気をつけるのじゃぞ」
最後に、僧侶の美少女がぼくに向かってウインクをする。
「くれぐれも、序盤でドラゴンのカードとか引いたりしちゃダメだからね」
「えええっ?」
ぼくは天を振り仰いでつぶやいた。
「……なにが最新技術だよ。このメンツでカードゲームやるだけじゃないか」
『食う女』【りきてっくす→るうね】
どんなに取り繕ってみせても、女性はものを食べさせると本性があらわれる。化粧をして澄ましても、可愛い洋服で着飾っていても、美味しい料理を口にしたとたん、一気に化けの皮が剥がれる。「顔」だったものが「貌」になる――。
「なにこれサイコー。翔太よくこんな美味しい店知ってたね。てか、あたしがパスタ好きなの分かってんだから、もっと早くに連れてきなさいよって話ィー」
麺を口いっぱい頬張りながら目を輝かせる由香を見て、翔太はため息をついた。ほんの数分前まで天使の生まれ変わりなのではと本気で思わせた恋人の顔が、今は野生動物のそれと化している。クリームまみれの口を下品に指でぬぐい、由香は弾んだ声で言った。
「ねえ、まだまだ食べられそうなんだけど、追加頼んじゃってもいいかな?」
よし、オープニングが始まった。
お馴染みのテーマ曲に合わせ、美麗なグラフィックが3Dホログラムとなって映し出される。うん、さすがスエクニ、こういうところは手を抜かない。
つぎにパーティメンバーの選択画面だ。
人員は全部で3名。
最初だし、ここは鉄板でゆこう。
ぼくは戦士、魔法使い、僧侶の順に選んでいった。
と、目のまえの空間が輝きだす。おおっ、さすがは最新作。キャラクターも3Dで描かれるのか。
だが違った。
ぼくの眼前では、まったく想像もできないような光景が繰り広げられる。
まず、極小のレゴを組み合わせるようになにかが形造られてゆき、それは人間の脊髄となった。そこからさらに全身の骨格が形成されてゆき、肋骨のなかには内臓がみっちりと詰め込まれる。やがて骨格のまわりを筋肉が覆い、最後に全身の皮膚が形成された。
それはまるで、九相図を逆回しで見ているような光景だった。
「なんだこれ?」
おれは、あわててヘルプ画面を確認した。
「ええっ、まじかよ!」
そこには驚愕の説明がなされていた。なんとキャラクターの作成では、周囲の元素から細胞を合成し肉体を再構築するらしい。つまり本物の人体を作ってしまうというわけだ。
「こ、これが最新の技術……ちょっとスゴ過ぎる」
おれは感動で口がきけず、ぽかんと前方を眺めていた。すると目のまえにならんだ三人が、順番に挨拶をはじめた。
「はじめまして。私はブライアンといいます」と戦士のおっさん。
「ふぉふぉふぉ、わしはアダムスキーじゃ」と魔法使いのじいさん。
「回復はおまかせ。シスターのキャサリンよ」と僧侶の美少女。
ぼくはあわてて頭を下げた。
「あ、どうも、ぼくは村岡たかしです。えと、ゲーム内では一応勇者をやらせていただきます」
一通りあいさつも済んだところで、戦士ブライアンが「ではそろそろ始めましょうか」と言った。
ぼくはドキドキした。
リアルキャラ四人で、いったいどんな冒険をするのだろう。もしかしてダンジョンなんかも現実に作ってしまったりするのだろうか。なんたって最新技術だもんなあ……。
と、三人はぼくの周りで車座になって、いきなりカードを配り始めた。
「……え?」
カードの山を作りながら戦士のおっさんが言う。
「最初はスターターキットを使用しますので、攻撃や呪文のカードはバランス良く配置されていると思います」
ふぉふぉふぉと笑いながら魔法使いのじいさんも言った。
「ただし、クリーチャーのデッキだけはレベルがランダムじゃから、じゅうぶん気をつけるのじゃぞ」
最後に、僧侶の美少女がぼくに向かってウインクをする。
「くれぐれも、序盤でドラゴンのカードとか引いたりしちゃダメだからね」
「えええっ?」
ぼくは天を振り仰いでつぶやいた。
「……なにが最新技術だよ。このメンツでカードゲームやるだけじゃないか」
『食う女』【りきてっくす→るうね】
どんなに取り繕ってみせても、女性はものを食べさせると本性があらわれる。化粧をして澄ましても、可愛い洋服で着飾っていても、美味しい料理を口にしたとたん、一気に化けの皮が剥がれる。「顔」だったものが「貌」になる――。
「なにこれサイコー。翔太よくこんな美味しい店知ってたね。てか、あたしがパスタ好きなの分かってんだから、もっと早くに連れてきなさいよって話ィー」
麺を口いっぱい頬張りながら目を輝かせる由香を見て、翔太はため息をついた。ほんの数分前まで天使の生まれ変わりなのではと本気で思わせた恋人の顔が、今は野生動物のそれと化している。クリームまみれの口を下品に指でぬぐい、由香は弾んだ声で言った。
「ねえ、まだまだ食べられそうなんだけど、追加頼んじゃってもいいかな?」