第91話

文字数 524文字

 目を閉じると、今でもたづのそんな怒鳴り声が聞こえてくるようだ。
 桜の木を前に、又十郎は目を閉じながら過去を思い返す。
 あれから、十数年の月日が経った。父の借金がもとでお家は取り潰し。だが、それでもたづは藤倉家から離れず、又十郎の世話を焼き続けてくれた。
 桜の木を折って、よくたづに叱られたものだったな。
 思えば、あれが又十郎の初恋だったのだ。たづに構ってほしくて、よくやんちゃをしていた。
 桜の木を前に、又十郎は刀の柄に手をかける。
 あんなに元気だったたづが流行り病で早逝するのだから、世の中というのは分からないものだ。今の、藩の武芸師範になった自分を見て、たづは何と言うだろうか。
 桜の木を居合斬りに斬ろうとして。
『若様っ、これはいったい何事です!』
 不意に、そんな声が聞こえた。
 苦笑して、刀の柄から手を外し、川沿いの道を歩き出す。
 桜は、今日も満開である。


『AI』【るうね→りきてっくす】

「ついに完成したぞ!」
「やりましたね、博士!」
 暗い研究室に、博士と助手の声が響く。
「全知全能のAI、それがいまここに!」
「これで人類は救われるでしょう。今起こっているあらゆる問題に、このAIが答えを出してくれるでしょうから」
「うむ。ではさっそく……」
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