第46話

文字数 2,149文字

 ボボボボッと排気ガスをまき散らして、空から巨大ロボットが降り立った。ガンダムとエヴァンゲリオンとロボコンを足して三で割ったような姿だ。
「こ、これが……?」
 うろたえるビッチマンに向かって、マスクレッドが勝ち誇ったように言う。
「驚いたか。われらの秘密兵器マスクロボだ!」
「ウッキー!」
 マスクロボは、そこらじゅうの建物を壊しはじめた。
「やめるんだマスクロボ。われわれの敵は市民ではない、この怪人ビッチマンだ!」
 しかし言うことを聞く様子はない。白い歯をむきだして、手当たり次第に破壊してまわる。
「まずいな……」
「おい、これはどういうことだ?」
 ビッチマンが驚いて尋ねる。マスクレッドは恥ずかしそうに頭をかいた。
「いやじつはロボに搭載するAIの開発が間に合わなくて、代わりにチンパンジーの脳を入れてあるのだ」
「なんだと?」
 しだいに焦土と化してゆく街を見ながら、ビッチマンがため息をついた。
「あ~あ、どうすんだよこれ」
「困ったなあ」
 もう壊すべき建物がないと見たのか、マスクロボは背中のジェットエンジンを点火させた。
「どこへ行くんだマスクロボっ?」
「ウッキー!」
 ボボボボッと排気ガスをまき散らし、ロボの体が浮き上がる。
「待て、これ以上問題を起こすんじゃない」
 マスクレッドの忠告へは耳も貸さず、黒煙を吹き上げながらマスクロボはいずこかへと飛び去ってしまった。
「ひょっとして、よその街を破壊しに行ったんじゃないのか?」
「そうかもしれない。もう我々の手には負えん」
「おいおい無責任なこと言うなよ。そもそも、なぜあんな出来そこないを造ったんだ?」
「仕方なかったんだ。総務省が年々予算を削ってくるから、体のパーツを揃えるのでやっとだった。人工知能にまで手が回らなかったんだ」
「おまえらの組織というのは総務省の管轄なのか?」
「上層部はみんな役所からの天下りだよ。おかげで人件費ばかりかさんで、現場のほうへはちっとも予算が回ってこない」
「おまえらも色々と大変なんだな」
「まあね」
 マスクピンクが、レッドの肩を叩いた。
「落ち込んでいるヒマはなくってよ。はやくロボを取り押さえないと、このままでは世界が滅びるわ」
「そ、そうだな」
 ビッチマンが首をひねった。
「ちょっと待て。さっきから疑問に思ってたんだが、今日はなぜ二人なんだ? 青いのやら黄色いのはどうした?」
「ああ、マスクブルーとイエローは先週から有給休暇を取っている。マスクグリーンは子供が生まれたばかりなので育休中だ」
「なんだと。のんびり休暇を取るほど世界は平和なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
 申しわけなさそうにマスクレッドが言う。
「じつはこのあいだ労働基準監督署から査察が入って、有給をまったく消化していないと是正勧告を受けたばかりなのだ」
「おまえらの組織って、びみょーに立場弱いんだな」
「まあね、半官半民の特殊法人だし、事なかれ主義の役立たずばかりで、現場のことなんかちっとも考えちゃいない」
 自嘲気味に言葉を吐き捨てるマスクレッドを見て、ビッチマンもうなずいた。
「どこの組織も同じだな。うちも最近ではコンプライアンスがどうとかで、以前のように傍若無人には振る舞えなくなった。まったく世界征服なんて前近代的なテーマは、今の時代にはそぐわないのかもしれんな」
 大きなため息をついてから、彼は気を取りなおしたように言った。
「とにかく今は暴走したロボットを取り押さえるのが先決だ。おれも協力してやるから、早く捜しに行こう」
「え、手伝ってくれるの?」
「困ったときは相身互いだ。今回は貸しにしといてやるよ」
 ビッチマンは白い歯を見せて笑った。マスクピンクが、ハート形のマスクの下でウインクした。
「ありがとう。今度一杯おごるわね」
「ふふ、期待しないで待ってるぜ」
「よし、それじゃ気を取り直してゆこうか」
 マスクレッドが叫んだ。
「マスクピンク、ビッチマン、フォーメーションBだ!」
「はい!」「おう!」
 三人は組体操のようなポーズを決めると、夕日がにじむ街のシルエットを背にして猛然と駆け出した。



『モンハン彼女』【りきてっくす→るうね】

「アシナくん、もし明日ヒマだったらウチへ遊びに来ない?」
 あこがれの天竜寺先輩からそう誘われたのは、梅雨も明けようやく本格的な夏がおとずれようとしている、とある昼下がりのことだった。おれは三時限目の講義をサボって、学食で一番まずいCランチをもそもそ口のなかへ運んでいた。先輩は向かいの席で頰づえをついて、いたずらっぽくおれの顔をのぞき込んだ。
「今ね、うちのパパとママ旅行中なの」
 おれはぶったまげて、付け合わせのスパゲッティをのどに詰まらせた。
「ゲホゲホッ」
「あの、もし用事があるのならまたでいいんだけど……」
「と、とんでもないっ」
 あわてて首を振る。わが文芸部の花である天竜寺先輩の誘いを断るなど畏れ多いこと。たとえどんな予定があろうとすべてキャンセルだ。
「じゃあオッケーなのね」
「もちろんですとも。万難を排してうかがいますっ」
「よかった。じゃあ住所はメールで送っておくから。あとなにか武器になるものを持参してね。それじゃ明日待ってるから」
 それだけ言いおいて彼女はさっさと学食をあとにした。
 武器を持参……?
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