第65話

文字数 567文字

 とりあえず、その肉芽を母親に見せてみた。すると、
「ありがたや、ありがたや……」
 と、その肉芽を拝み始めた。
「なんなの、気味が悪い」
 そう言ったが、母親は拝み続ける。
「どうしたんだ」
「いや、実は」
 仕事から帰ってきた父親が不思議そうな顔をして訊いてきたので、肉芽を見せて説明する。すると父親も、
「ありがたや、ありがたや……」
 と、やり始めた。
 気味が悪くなったので、肉芽を切り取ろうとハサミを持って鏡に向かったが、予想以上に大きくなっていて、自分では処理できそうもない。仕方なく、次の日、病院に行ったが、
「ありがたや、ありがたや……」
 医者もこの始末。
 いったい、この肉芽は何なのだろうか。
 それから数日、肉芽は大きくなり続け、口からはみ出してきた。それを見た人たちは皆、
「ありがたや、ありがたや……」
 その後も、肉芽は肥大し続け、ついには全長五百メートルぐらいになった。すでに、サイズ的にはわたしの身体の方が肉芽のようだ。きっと、このままわたしは消えてしまうのだろう。でも、みんなはありがたがっているので、まあいいか、とわたしは思った。



『おら、こんな村嫌だ』【るうね→りきてっくす】

「どうしても、この村を出ていくの?」
 幼なじみのたえ子が、悲しそうにおらを見つめる。その目から視線をそらし、おらはうなずく。
「おら、こんな村嫌なんだ」
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