第49話

文字数 639文字

 そも、良太はなぜみるく様の正体を確かめたいのか。
 それは、島ではみるく様の正体を知れば大人になれる、という噂のせいだった。
 良太は、早く大人になりたかった。自分を男手一つで育ててくれている父親の助けになりたかったのだ。
 夜になって、良太は村の中央の広場の隅に隠れて、その時を待った。
 やがて、大人たちが集まってくる。その格好の異様さに、良太は眉をひそめた。
 全員が全員とも、赤ちゃんのような柄のつなぎの服を着て、首にはよだれかけをつけている。
 そして、運ばれてくるご神体。それは胸の大きなかっぽう着姿の女性の像であった。
 大人たちは「ばぶー」「ばぶー」と口々に唱え始める。その口にはおしゃぶりがあった。
 そんな中に、良太の父親もいた。
「な、何やってるんだよ、父ちゃん!」
 父親の奇行に、たまらず良太が走り出る。
 父親は驚いた顔で、
「そうか、良太ももうそんな歳か」
 と、感慨深そうにうなずいた。
「これはな、赤ちゃんプレイ祭、といって、年に一度、大人が童心に返るための儀式なのだ。お前には少し早いと思っていたが……一緒にやるか!」
「やらねぇよ」
 きらきらした目をした少年はどこへやら。良太の目は冷たく濁ったものに変わっていた。


 こうして、良太は大人になったのだった。



『足りないもの』【るうね→りきてっくす】


 世界初の完全なるVRMMOが作られた。
 視覚や触覚はもちろん、味覚や嗅覚までも完全に再現。
 だが、そのVRMMOには、たった一つだけ足りないものがあったのだ。
 それは……。
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