第44話

文字数 746文字

 フロアマネージャーであるC子を呼び出した。
「なに?」
「じつはこれからA氏と、ディーラーとしての腕くらべをするんだけど、C子さんなにか良いアイデアはないかな?」
 C子は怪訝な表情をした。
「ディーラーとしての腕くらべって何よ?」
「いやだからさ、ぼくらのうちどちらがディーラーとして腕が上か……」
「ばっかじゃないの?」
 C子は腰に手を当て、フンと息巻いた。
「カジノのディーラーって、ゲームの進行をしながらチップの計算や分配をするのが仕事でしょう。それの何を競うっていうのよ? カードさばきの華麗さ? それとも配当金を算出する速度?」
「いや、そう言われると……」
 B氏は、A氏の顔をうかがった。A氏は、えへへと笑ってごまかした。
「いや、あんまりよく考えてなかった……」
 C子は、やれやれと肩をすくめて言った。
「今、集客が落ち込んで大変な時期なんだから、バカなことしてないで働いてちょうだい。ほら、後片づけの途中だったんでしょ。早くやらないと警備会社のひと来ちゃうわよ」
「はあい」
 A氏とB氏は女性上司に叱られ、しゅんとなってそれぞれの持ち場へと帰っていった。




『祟り』【りきてっくす→るうね】

 大和國は十市郡神乃戸の郷に桑弓という名の長者住めり。一千町歩の名田を有する大地主なり。桑弓には娘ありて名を満乃子という。生年二十二なり。常より良縁なきことを思い悩みしに、あるとき倉の内より神々しき八面八臂の像出でたり。陰陽法師に問えば、其は笠山の荒神なるらん、長きにわたり倉の奥にて打ち捨てられしを祟りけむという。桑弓おおいに驚きて、多武嶺の山腹の大なる岩の上にて御堂築き、屋敷神たらんとして祀りたる。然るに此れは荒神にあらざるなり。歳星の門番たる八大鬼の一にて、名を八獄卒神という。きわめて凶神なり――。
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