第29話
文字数 906文字
「ん?」
決行の日の前日。
夜半に小便に起きてきた長五郎は、寺の境内の片隅で動く者の姿を見た。
「ありゃあ……」
惣念という若い僧であった。
何をしているのかと見てみれば、枯れ柴を集め火打石で火をつけようとしている。
「なんてこった」
そこは幼い頃より盗みを重ねてきた者の勘である。長五郎は惣念が同業者であると、ぴん、ときた。
「ちくしょう、これじゃ俺の計画が」
あわてて、長五郎は惣念に駆け寄る。
「おい、何をしている!」
ここで、長五郎が人を呼ばなかったのは、自分も盗人であるという後ろめたさからである。
だが、それが裏目に出た。
犯行がばれたと判断した途端、惣念が懐から匕首を取り出し、長五郎に突きかかってきたのである。
二度、躱したが、そうそう躱し続けられるものではない。
深々と長五郎の腹に匕首の刃が突き刺さる。
うめき声さえ上げられずに、長五郎は地面に倒れ伏した。
惣念はしばらく辺りをうかがっていたが、誰も来ないことに安心したのだろう。再び火打石で枯れ柴に火をつけ始める。
やがて火は枯れ柴に燃え移り……。
(……ああ)
長五郎は思う。
(ちくしょう、不細工な火のつけ方をしやがって。俺なら、もっと上手く、美しく……)
すでに、惣念はその場を離れて姿が見えない。
ちろちろと燃える炎が少しずつ長五郎の方に忍び寄ってくる。
だが、その目はすでにこの世の何も映してはいなかった。
『恋人のできるDVD』【るうね→りきてっくす】
「くそっ」
つぶやいて、俺は空き缶を蹴る。
デートの待ち合わせ相手にすっぽかされたのだ。
これで都合、十回目。
まあ合コンでの出会いなんてろくなもんじゃないと理解はしているが、こうも空振りが続くと嫌になってくるというもんだ。
「確実に恋人ができる方法はないもんかな……」
と。
「もし……そこのお方」
そんな声がした。
声の出所を探ると、電柱に身を寄せるようにして一人の老婆が立っていた。
「どうやら恋人が欲しい様子……でしたら、このDVDを買いませんか?」
そう言って、老婆は一枚のDVDを俺に向けて差し出した。
決行の日の前日。
夜半に小便に起きてきた長五郎は、寺の境内の片隅で動く者の姿を見た。
「ありゃあ……」
惣念という若い僧であった。
何をしているのかと見てみれば、枯れ柴を集め火打石で火をつけようとしている。
「なんてこった」
そこは幼い頃より盗みを重ねてきた者の勘である。長五郎は惣念が同業者であると、ぴん、ときた。
「ちくしょう、これじゃ俺の計画が」
あわてて、長五郎は惣念に駆け寄る。
「おい、何をしている!」
ここで、長五郎が人を呼ばなかったのは、自分も盗人であるという後ろめたさからである。
だが、それが裏目に出た。
犯行がばれたと判断した途端、惣念が懐から匕首を取り出し、長五郎に突きかかってきたのである。
二度、躱したが、そうそう躱し続けられるものではない。
深々と長五郎の腹に匕首の刃が突き刺さる。
うめき声さえ上げられずに、長五郎は地面に倒れ伏した。
惣念はしばらく辺りをうかがっていたが、誰も来ないことに安心したのだろう。再び火打石で枯れ柴に火をつけ始める。
やがて火は枯れ柴に燃え移り……。
(……ああ)
長五郎は思う。
(ちくしょう、不細工な火のつけ方をしやがって。俺なら、もっと上手く、美しく……)
すでに、惣念はその場を離れて姿が見えない。
ちろちろと燃える炎が少しずつ長五郎の方に忍び寄ってくる。
だが、その目はすでにこの世の何も映してはいなかった。
『恋人のできるDVD』【るうね→りきてっくす】
「くそっ」
つぶやいて、俺は空き缶を蹴る。
デートの待ち合わせ相手にすっぽかされたのだ。
これで都合、十回目。
まあ合コンでの出会いなんてろくなもんじゃないと理解はしているが、こうも空振りが続くと嫌になってくるというもんだ。
「確実に恋人ができる方法はないもんかな……」
と。
「もし……そこのお方」
そんな声がした。
声の出所を探ると、電柱に身を寄せるようにして一人の老婆が立っていた。
「どうやら恋人が欲しい様子……でしたら、このDVDを買いませんか?」
そう言って、老婆は一枚のDVDを俺に向けて差し出した。