第95話

文字数 543文字

 と、そこにスマホへの着信音が鳴った。
「ちょっとすまない」
 と、妻に言って、スマホを取り出す。着信の番号を見ると、浮気相手からだった。多分、これから会えないかというお誘いだろう。おれはげんなりした。
 とりあえず、着信が切れるまで待つ。五分ほどで切れた。なげぇよ。
 と、またすぐに着信があった。副業で出ているAVの事務所からだ。急遽、汁男優が必要になったのだろう。これも、着信が切れるまで待った。十分。なげぇよ。
 と、また浮気相手から着信。
「すまない、仕事先からだ。すぐ戻るから」
 妻に言い置き、一度、夜の街へ戻る。くそう、おれはどうすればいいんだ。
「あーら、素敵なお兄さん。寄っていかない?」
 そういう店からのお誘い。おれは頭をかきむしった。誰か、この地獄からおれを救い出してくれ。


 そこで目が覚めた。
 辺りを見回す。
 四畳一間の小さな部屋。そうだ、俺はここで引きこもっていたんだ。当然、妻も浮気相手もいないし、副業どころか仕事もしていない。
「さっきの夢とどちらが地獄かな」
 そうつぶやき、俺は自慰をして寝た。



『断れない男』【るうね→りきてっくす】

 俺は断れない男だ。頼み事でも告白でも、何でも受け入れてしまう。
 だが、そんな俺でもたった一度だけ頼みごとを断ったことがある。それは……。
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