第62話

文字数 1,038文字

 迷惑そうに鼻をつまみながら靴底を確認します。色、つや、形、どれをとっても間違いなく人間のうんこです。
「くっそう、だれだ道の真ん中でうんこしたやつは?」
 非常識にもほどがあります。そのとき目の前の豪邸から、赤いガウンをはおった中年男が現れました。太郎は思わずギョッとしました。男が、全裸の娘を犬みたいに引いていたからです。娘は四つん這いのまま片足をあげると、道路わきで小便をしました。
「くくく、だいぶ溜まっていたようだな」
 男が愉快そうに笑い、娘は顔を赤くしてうつむきます。太郎はあわてて電信柱の陰に身を隠しました。
「やばい、きっとあれは関わってはいけない人たちだ」
 娘は小便をし終わると、不安そうに男を見上げました。道ばたに生える雑草から、ほかほかと湯気が立っています。男は四つん這いの娘を見下ろすと、意地悪そうに片方の眉を吊りあげました。
「うん? どうした、早くうんこもしないか」
 それを聞いて、娘は悲しそうにイヤイヤをします。とたんに男は、右手に持っていた鞭で娘の尻を打ちました。
「きゃっ」
 反射的に逃れようとしますが、首輪でつながれているのでどこへも行けません。ふたたびピシッと鞭が鳴り、娘がめそめそと泣き出します。太郎は思わず拳を握り締めました。なんてひどいやつだ。
「ほら、人が来ないうちに早くうんこしろ。いうことを聞かないとキツイお仕置きが待っているぞ」
 男に脅され、娘は仕方なく背中を丸め腰を沈めます。やがて縁石のわきに見事なうんこの山ができました。
「むふふ、こっちもだいぶ溜まっていたようだな。見ろ、臭いくっさいお前のうんこだ。わはは——」
 太郎は怒りで全身をワナワナと震わせました。こんな非人道的なこと見逃すわけにはいかない。彼は物陰から飛び出すと、娘を引いて家の中へ戻ろうとする男に向かって叫びました。
「おいこら、ペットの糞は、飼い主が責任を持って始末しましょう!」




『疾病』【りきてっくす→るうね】

 休日の朝、寝ぼけまなこをこすりながらトイレへ入ると、便器のなかが一面真っ赤に染まった。血の小便が出たのだ。俺は顔面蒼白になり、パジャマを赤いしずくで汚しながらふたたびベッドのなかへ潜り込んだ。
 やばい、何の病気だろう?
 まず頭に浮かんだのは、性病だ。
 ――ちくしょう。俺に病気うつしやがったのは、どの女だ? ガールズバーのあけみか? 経理部のさなえか? それともこのまえ行った風俗店の……ええい、考えてもしょうがない。早いとこ泌尿器科の病院で診てもらおう。
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