『錬金術師の魔砲』

文字数 968文字

『錬金術師の魔砲』/J・グレゴリイ・キイズ

これはすごい。エーテル宇宙での近代科学史(?)と言った内容の現実改変SFで錬金術ファンタジーです。


時は一八世紀前半、ルイ十四世の時代。現実でも長い在位期間だったフランスの王は、いまわの際に謎の”ペルシャの秘薬”を飲んだことでさらに長命となり、そのまま王として君臨。その剛腕でフランス全体を疲弊させていました。(ヴェルサイユ宮殿除く。太陽王の周りだけは贅をつくして絢爛豪華なのは史実通り)


いっぽう、新大陸アメリカのボストンでは、天才少年ベンジャミン・フランクリンが、天才科学者サー・アイザック・ニュートンの「プリンキピア」に憧れて、独自の科学研究の末に世界の科学者や錬金術師たちが使うテレタイプに似た秘密の通信を傍受する発明をしていました。

天才少年はその発明品を使い、世界のどこかで難問にぶつかって悩んでいる人の高度な数学をかわりに解いてあげてしまったりなんてこともしていました。

が、しかし、彼が解いてしまった難問とは、某国が作ろうとしていた世界を変えるほどの超兵器、『ニュートンの魔砲』の鍵となる数式だったのです……。


という感じで話が進むんですが、歴史改変ものの醍醐味である史実の有名人(とくに科学者)が数多く登場してくれて楽しめます。

なにしろニュートンが錬金術の実験を「成功」させてしまう世界ですから、いろいろ史実とは食い違うのですけれど、今の科学の根本がもし錬金術的な科学であったらきっとこうだったろうという不思議な世界観。


元素が精霊の産物であり、元素を発酵させることで別の元素へ変換するといった「魔法」が科学的に細かく考察されていて、設定マニアでもきっと楽しめることと思います。


特に、科学の歴史に興味がある人にはお勧め!

うっかりあっちの魔法科学な歴史を信じちゃわないように、手元に史実の科学史テキストを持ちながら読むとなお面白いですよー。

(おまけのひとこと)この時代のお話にしては、とんでもなく大げさなことに最後のほうなってくるのですが(それは読んでのお楽しみ)最後はなんだか消化不良なエンドマーク。あれこれおわってなくない? っと思ったらこれ四部作の第一部なのだそう。

第二部以降はまだ邦訳されていない様子です。

つづき読んでみたいですねー。

Original Post:2019-03-27
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