『ワン・ゼロ』

文字数 1,302文字

『ワン・ゼロ』 / 佐藤史生

圧倒的想像力なのです。

こんなすごい話が80年代に描かれていたなんて。。

今読んでもこの情報量に驚きます。


それはまだパソコンソフトがカセットテープで売られていた時代、8ビットのコンピュータが全盛で、ようやく16ビットマシンが世に出たぐらい? とまあそんな時代に書かれた近未来SFです。

そのころから見た近未来の描写なので、まだ電話機は受話器にカールコードがついた固定式で携帯電話は出てこなかったり、インターネットは(らしきものはでてますが)存在しなかったりします。が、そんな些末なことはお話の魅力と、この先見性の前には全く問題ありません。


とにかくすごい。

語られていることは深く、大きく、哲学的ですらあります。

タイトルにもなっている1と0、言わずもがなのコンピュータの根本原理、スイッチのON/OFFに対応した2つの数字から始まり、光と影、陰陽の対比。二元論から複雑化していきカオスとなり、やがて曼荼羅というある種の数学的パターンへ……。

それが、人類創生や宇宙生成の秘密、「神々」とその神々にあだなす「魔」たちのはるかな万古からの戦いとして描かれ、人類によって生み出された、そもそも二元論で駆動するコンピュータによってそのシステムが解明されていく……。

コンピュータに芽生える自我。人間の精神の探求。神を探すプロジェクト。


なんとまあ壮大なのでしょう。


で、も、ですよ。

でも、これらが一介の(?)高校生たちの上に降りかかり、彼らの一種能天気な日常と交わりながらストーリーが展開していくのです。


このギャップがすごい。でもって取っ付きやすい。


主人公たちが神々側ではなく、「魔」サイドとして描かれていることも面白いですね。

巨大な力を持つ神々たちが目指している完全無欠のユートピアに反発する若者の姿が、たぶん読者に近しくて身近なものだから、それがこの取っ付きやすさを生み出しているのかもしれません。

(なにしろ人類の未来より明日のテストが気になる子たちです)


普通の作家なら、神々との最終戦争! ハルマゲドン接近っ! ってかんじでスペクタクルにしちゃうんでしょうが、佐藤史生さんは、ごくナチュラルにどこにでもいそうな若者たち(みんな美形だけれど(笑))と共に、末法の世をイージーに生きる(?)感覚で描いてくれているのです。

この感覚がよいのだわあ。


深く細かく難しく読むこともできるし、キャラに感情移入して彼らの視点でレトロフューチャー(と言うほどレトロではないですが)な末法の世を楽しむこともできる。不朽の名作SFコミックです。ちょーおすすめ!!


(おまけのひとこと)

これを初めて読んだのはまだ小粒の豆粒だった時代なので、初見ではちっともわかんなかったのをぼんやり覚えています。わけわからないなりに『幻魔大戦』みたいなお話なんだけれどちょっと違う~。と感じていた気が。

今読むとそのあたりの深さも違いもちゃんと理解できるのですが。(すこしは粒が大きくなったようですw)

それにしても、ほんっと先を見ていたのですねえ。ぜんぜん古くないですよこの漫画! すごい!

Original Post : 2019/07/07
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