『奴隷のしつけ方』

文字数 1,291文字

『奴隷のしつけ方』

  /マルクス・シドニウス・ファルクス(著)

  /ジェリー・トナー(解説)

古代ローマ時代にパピルスの巻物に記された、奴隷管理方法の現代語訳。


……と、いう設定の本。なんですが、これがまためちゃくちゃ面白い(というか興味深い)のです。


古代ローマでは、当然のごとく、奴隷と言うのはごく当たり前の存在で、今でいう家電製品や自動車のように誰でも(裕福な自由市民なら)一家に一台というか、一家(ファミリア)に一人や二人そろえておくのが常識……のような存在でした。
便利な家電製品同様、人間ではなくモノとして扱われることが当然で、人権なんてもちろんないわけです。
ただし、彼等にモノとしての扱いしかしていないと、当然奴隷とはいえ人間ですから、反抗もするし脱走もするし、場合によっては反乱をおこしてしまうことも。
そんな、一筋縄ではいかない奴隷たちの「しつけ方」のノウハウを、奴隷の管理に長けた古代ローマ人が他の市民に伝えるために記した。という本なわけです。

もちろん奴隷を管理する側からの視点なので、とんでもなく上から目線でかかれているのですが、優秀な主人であるためには、たとえ奴隷相手でも友愛を持って接し、公正で公平に飴と鞭をつかいこなし、奴隷からも慕われる主人であるべし。という風に、(あくまで古代ローマ式に、ですが)人心掌握法がわかりやすく記されています。

当時の人々、自由市民、奴隷、ローマ人、ローマ以外の(野蛮)人など、それぞれの考え方や生活もいろいろ書かれていて、結構参考になります。

例えば、この本は古代ローマ人が書いたという設定なので、それより昔の古代ギリシャ人は奴隷を動物以下にあつかっていてなっとらん! その点ローマ人は洗練されているから家畜のように扱っていてえらいよね! という感じw

時代によって奴隷の扱いや規範が違うこともよくわかります。


また、著者とされている古代ローマ人のマルクス・シドニウス・ファルクスの語りだけでなく、章ごとに現代人のジェリー・トナー教授(古代ローマの社会生活を研究しているそう)の解説が入り、理解を助けてくれます。ちゃんと参考文献も明示されているので、読めるかはともかく原書に当たることもできそうw

ともあれ、いろんな意味で人間の上下関係は今も昔も変わらないのだなあと(もちろん、人権とか大いに変わった部分はありますが)妙な感心をしてみたり。
今流行り(?)のブラックな企業や、家父長制度が根強い家庭での女子の扱いなんかを見ると、ちょっとはこの本で勉強してみてほしいわ~なんて思っちゃったりもしますね~。

(おまけのひとこと)

この本の著者(とされている)マルクスのように奴隷制を容認してそれを正当化する人は現代ではもういません。けれども、現代には、当時の奴隷同様に暴力で脅されて労働を強制され、給料ももらえず、逃げる権利もない人々が少なくとも2700万人はいるのだそうです。はるかに進歩したはずの現代社会は、古代ローマの時代よりも多くの奴隷状態の人がいるということを、私たちは忘れてはいけないのです。

Original Post:2018/05/31
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