『電子工作入門以前』

文字数 1,399文字

『電子工作入門以前』 / 後閑 哲也  (著)

いきなりですがご注意。これ、タイトルに偽りありかもです。

たしかに、言われてみれば、「電子工作入門以前」に知っておいた方が良い内容ではあるのです。

が。

です、けれど。ね。

いやはや、これがまたやすごいのですよ。


何がすごいって、まず、電気って何? ってレベルの歴史から始まります。

電気の発見から半導体・トランジスタの発明まで、歴史にそって順繰りに重要な発見・発明をていねいに解説し、それから、トランジスタを使って作られたコンピュータの基本とその発展まで、人類の知の発展の歴史を超高速で駆け抜けます。


ここら辺は科学の歴史として、読み物としても十分面白く為になる内容。電子工作に興味なくても科学史ファンなら楽しめるかも。


最初に言った通り、たしかにこれらは電子工作の入門より前に知っていた方が、人類としては良い気がします(いや、絶対的に良いとおもいます)。

けれど、この本の内容を「電子工作入門より前の内容ってことは、超初心者向けで簡単に違いない」と勘違いしてはいけません。

そんな簡単なシロモノではないのです。がっつり、真剣に、電子工作を学ぶぞ! という気合いが必要な本なのでした。

この冒頭からの剛速球に耐えることで、この本に立ち向かえるかどうかの自分のレベルを知ることもできる。それが、電気の発見・発明の歴史が語られる第一章(まだ第一章!)なのです。


そんな第一章をクリヤしてから、ようやく電子工作でできることや、電子工作に必要な物など、普通の電子工作入門書っぽい章があらわれ、ちょっと一息できます。


しかしその後、アナログ回路にデジタル回路、回路設計の仕方、ロジックICの使い方、放熱設計などなどの「知っておいた方が良いこと」がこれまたがっつり書かれ、難易度と共に内容もがんがん加速。マイコン(小さなコンピュータチップ)の使い方にPICプログラムの仕方、プログラムの書き込み方と、急激に高度になっていきます。


読んでいて、これは、ホビーとして「電子工作」ができるようになった現代までの歴史を再確認して学んでいる行為な気がしました。

第一章でも出てきたムーアの法則どおり、加速度的に高度・高速になっていくコンピュータを使った「工作」。それを自分たちでやっちゃおうというホビイストにとっての矜持を、基礎原理をしっかり正確に学ぶ行為を尊び楽しむこと。それは苦行ではなく楽しみなんだという、電子工作の楽しみ方そのものの原則から教えてくれているような、そんな気がするのです。


最終的にはこうやって歴史順に学んできた内容をつかって、システム設計(!)まで学べてしまう、という。いやはやまあほんとにすごい本です。


この本をしっかり読み込んだら、いくら何でも「入門」ってレベルじゃあない感じがしますね。

そういう意味でも、タイトルに偽りあり、な気がします。けれど、でも、やっぱり「電子工作入門以前」で正しい気もします。あえてこのタイトルにしたのかも?

気合を入れて真剣に読みたい、そんな本なのでした。

(おまけのひとこと)

デジタル&コンピュータ系が連続してますねー。前回の「CPUの創り方」と並行して読むと(あっちは超ライトな文体ですが)なかなか趣(おもむき)があるとおもいます。秋の夜長に電子工作(はできなくても)読書で疑似体験。おつですねん♪

Original Post : 2019-11-01
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